東京外国語大学
1998 年 47 巻 9 号 p. 40-52
(EndNote、Reference Manager、ProCite、RefWorksとの互換性あり)
(BibDesk、LaTeXとの互換性あり)
『春の雪』は決して勅許の禁制を破って破滅に至る情念に身を挺する青年の恋物語ではない。むしろ彼は恋人聡子が勅許によって王の圏域に取り込まれるのを待って、その肉体のみを所有しようとしている。その狡猾ともいえる侵犯の仕方は勅許の禁制を保存しようとしており、逆に聡子が皇族との結婚をも拒んで仏門に帰依する選択の方が、天皇の価値を相対化している。この世俗と超俗の間で反転しつづける運動性のなかに『春の雪』は成り立っている。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら