生命倫理
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古代社会における終末期医療の視点 : インド、ギリシア、エジプトについて
吉次 通泰
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キーワード: 終末期医療, 告知, 古代社会
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2010 年 20 巻 1 号 p. 64-75

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抄録

先端医療が不要な終末期医療は、アーユルヴェーダ的には、人間を構成する身体、精神、アートマンの3者を含む全人的医療である。わが国では、末期患者の身体的治療は進歩してきたが、精神的およびWHOの定義する意味での霊的支援は不十分である。本研究の目的は、インド、ギリシア、エジプトの古代社会における終末期医療を検討することである。古代アーユルヴェーダ医学原典、『ヒッポクラテス全集』、『エドウィン・スミス・パピルス』と『エーベルス・パピルス』につき、終末期医療に関する記載を検討した。古代インドでは、医師は不治の患者の治療を放棄したが、医師自身の学識・名声・富を失い、非難を受けるためであった。また、患者あるいは家族に不治の疾患の病名や予後を伝えると、彼らに苦痛・悲嘆を与えるため告知しないのが一般的であった。古代ギリシア、エジプトでも不治の患者の積極的治療を避けたが、告知するのが一般的であった。これは、古代社会における文化の差異によるのかもしれない。本研究は、わが国の終末期医療の議論に新しい視点を提示するものである。

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2010 日本生命倫理学会
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