本稿は、芥川龍之介が高校時代に作成した手書きの怪談集『椒図志異』全六部のうち、「魔魅及天狗」部の典拠について考察したものである。まず、芥川は怪談蒐集の指針を、柳田国男の談話記事「幽冥談」から学んだ可能性を指摘する。さらに、「魔魅及天狗」部が平田篤胤の『古今妖魅考』に大きく依存していることを明らかにする。篤胤の書物は、仏教説話を多く取り上げている。芥川が『今昔物語集』を始めとする説話文学を受容する上で、大きな役割を果たした可能性がある。また、芥川における平田国学の受容を示す資料として、芥川旧蔵書『平田篤胤之哲学』(日本近代文学館所蔵)についても紹介する。