本研究の目的は,児童の情動に対する教師の支援を「情動的足場かけ」として捉え,情動的足場かけの形成過程の様子と,情動的足場かけを通じて応じるニーズについて,児童の情動表出に対する教師の応答行為をもとに明らかにすることである。
小学2年生の教室に参与し児童の情動表出に対する教師の応答行為の解釈的分析を行ったところ,以下の知見が得られた。
1.情動的足場かけの形成過程
教師は児童の情動状態や学習活動に合わせて応答行為を塗り重ねることで情動的足場かけを形成していた。この塗り重ねは,児童の情動を理解するために,また時間割等の制約により児童との関わりが分断され,その関わりの不十分さを後から埋めるために行なわれることがあった。
2.応答ニーズ
教師は児童の「学業達成ニーズ」と「社会-情動的発達ニーズ」の焦点を移行させながら双方への応答を行なっていた。また応答ニーズとして「ケアのニーズ」と「指導のニーズ」も見出され,教師はその間でも焦点を移行させながら児童を支援していた。しかし以上のニーズへの応じ方は,個別児童と他児童の双方に対する応答の間で相互交渉されており,教師があるニーズへ優先的に応じる場合や,どのニーズに応じてよいか分からず,どのニーズにも即応できるニーズ間の中間的立場から応答することがあった。
以上より,小学校教師による情動的足場かけは複数のニーズが混淆する中で行なわれていることが示された。