智山学報
Online ISSN : 2424-130X
Print ISSN : 0286-5661
ISSN-L : 0286-5661
不空所伝の『金剛頂瑜伽経』について(5) : 『理趣釈』成立事情管見
田中 悠文
著者情報
ジャーナル フリー

1992 年 41 巻 p. A73-A85

詳細
抄録

筆者は現在までに,8世紀にインドから中国へ,いわゆる『金剛頂経』系(従来の研究者の多くは初会金剛頂経とその付随の儀軌とする)密教を伝え,事実上その後の中国密教の主流をなした,不空三蔵の伝承した密教法門の主力とされる『金剛頂経』が,単に『真実摂タントラ』をさしていうのでも,『十八会指帰』中に列挙される十八部の瑜伽の名をもつ聖典群の総称として用いられるのでもなく,『梵本金剛頂瑜伽経』なる独立した聖典が存在する事からも,一口に『金剛頂経』といっても,場合によってその指し示す範囲に自ずと相違があるということを指摘してきた。それ故,例え題名に「金剛頂」あるいは「金剛頂瑜伽」なる名称が付加されていたにしても,直ちにそれを一義的に単一の聖典に帰されるものと考えるのではなく,それら儀軌各個を構成する諸要素を適宜検討することによって,各儀軌等の文献が典拠とする聖典を特定する作業が必要とされると考える。このような基礎的作業によって,はじめて金剛智・不空の伝承した「金剛頂経」と称される法門の輪郭が明らかにされると思われるためである。以上のような観点に立って,本稿では不空撰述と思われる『大楽金剛不空真実三昧耶経般若波羅蜜多理趣釈』(大正1003,以下『理趣釈』)をとりあげ,その撰述の傾向,構成要素の検討から,不空の伝承した法門について論究せんとするものである。

著者関連情報
1992 智山学報
前の記事 次の記事
feedback
Top