保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
調査報告
地形と履歴からみた津波被災後における汽水生沈水植物生育地の出現と消滅:浦戸諸島野々島(宮城県)の事例
山ノ内 崇志倉園 知広黒沢 高秀加藤 将
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2020 年 25 巻 1 号 論文ID: 1924

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抄録

2011年 3月に発生した東北地方太平洋沖地震の津波被災地では新たに形成された湿地に希少な湿性植物の出現が見られたが、その後の復旧工事などで消滅した生育地も少なくない。特に多くの沈水植物がみられた宮城県野々島において小規模な湿地の沈水植物相を調査するとともに、地形や津波前後の土地利用を調査した。 2015年 8月には、沈水植物として沈水生維管束植物 4種、車軸藻類 1種を確認した。空中写真、衛星画像および都市計画図の判読から、この湿地は海岸浜堤の後背に位置し、少なくとも 1950年代から津波を受ける 2011年までの間は水田または休耕地であった。この湿地は 2016年までに復旧・復興事業にともなう埋立てにより消失した。災害復旧には迅速性が求められるため、災害後に出現した希少種の保全策を検討する時間を確保することは容易ではない。そのため攪乱後の希少種の出現傾向を予測し、災害に先だって情報提供や注意喚起を行うことが必要である。地形情報や土地履歴などの地理情報を活用した希少種の出現の予測は、災害やその後の復旧・復興事業に先だった情報提供・注意喚起の手段として検討の価値があると考えられる。

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