Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
東シナ海産小型ナガニシ属(腹足綱:イトマキボラ科)の種類,特に1新種の記載と原殻の形態に関する考察
Paul Callomon Martin Avery Snyder
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2010 年 68 巻 3-4 号 p. 101-112

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抄録

近年,中国大陸沿岸および沖合いのイトマキボラ科に関する知見は急速に増大しつつあり,2006年以降にこの海域から4種の新種が記載されている。著者らは,この度中国沖の東シナ海からさらに新たなナガニシ属の種を見出したので,ここに新種として記載する。
Fusinus emmae n. sp. シマリスナガニシ(新種・新称)
殻はこの属としては中型(5個体の平均殻長104 mm,最大殻長105.9 mm),原殻は2.5~3層で,最初は平滑で膨れるが,最後の層では幅が狭まり弓状の細い縦肋が現われる。成殻はおよそ9層,初期の螺層は6本の主螺肋を具え,縦肋と交叉して顆粒状となる。主螺肋の間には二次肋があり,徐々に発達し,数も増えて,体層では主螺肋間に2~3本となる。縦肋は太く,肋間には多数の縦皺が認められる。水管はこの属として中庸の長さ,先端に向かって細まるがむしろ直線的。殻口は葉状,内部は白く陶器質で,外唇縁は薄い。軸唇の滑層は成熟するとやや遊離する。
比較:中国本土,および台湾沖の東シナ海から知られているナガニシ属の近似種2種のうち,Fusinusdiandraensis Goodwin & Kosuge, 2008とは,初期螺層の螺肋の数が多く顕著であること,各螺層の主螺肋の位置が周縁かその下にあること,螺肋と縦肋の交差点が葉状となることなどで異なる。また,F.flavicomus Hadorn & Fraussen, 2006は,初期螺層に疣列を伴う2本の螺肋を持ち,周縁の疣列は体層まで持続することで区別される。そのほか,ナガニシF. perplexus(A. Adams, 1864) の一部の表現型のうち,特に日本海に分布する型に類似するが,彫刻が粗いこと,水管が太いことで区別される。
タイプ産地:中国大陸沖の東シナ海,水深150~380 m。分布:東シナ海中国大陸沿岸の陸棚上,水深140~160 mの砂礫底から主に採集されるが,ホロタイプを含む幾つかの標本は350~380 mの深さから採集されたとされる。
Fusinus sp.
本研究において調べた標本の中には,少なくとも2つの一貫した形態の違いによって前種から区別される個体が見出された。すなわち,成熟サイズが前種(平均殻高104 mm,n=5)よりも小さく(平均殻高54.6 mm,n=11),縦肋がより弱くかつ数が多く,殻の全体に認められる。また水管はやや短く,より強く反り返る。しかし,同じサイズの個体を比較すると両者の違いはむしろ不明瞭で,ナガニシ類の他の種類で成熟サイズに大きなバリエーションを示す例があることを考慮すると,この場合も種内の表現型である可能性もある。

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