歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
再発性アフクに対する乳酸菌飲料の効果
米田 護
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1997 年 60 巻 2 号 p. g52-g53

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抄録

再発性アフタは, 口腔粘膜疾患の中でもっとも発現頻度が高く, 強い接触痛と再発を繰り返す疾患である。しかし, 本疾患の病因はいまだに明らかにされておらず, 治療法としては副腎皮質ステロイド剤の局所塗布や含漱などの対症療法が用いられているのが現状である。従来から再発性アフタ頻発者は, 健常者と異なった口腔常在菌叢を有するという報告が多くみられる。難波や小熊らは, 再発性アフタを必発とするベーチェット病患者の口腔常在菌叢からのStaphylococcus aureus, 真菌および仮寓菌などを高率に分離し, また辰巳は, 再発性アフタ頻発者の口腔常在菌叢からグラム陽性カクラーゼ陽性球菌を高率に分離し, 健常者との間に有意差があることを明らかにしている。一方, 乳酸菌飲料の連続飲用は, 腸内細菌叢のバランスのくずれに起因する疾患の腸内細菌叢を改善する効果があると考えられている。田中らは, 抗生物質の長期投与により腸内細菌叢に異常をきたし, 難治下痢症を発症した小児に対して乳酸菌を含む生菌製剤を投与した結果, 腸内細菌叢が改善され, 治癒したことを報告している。また著者らは, 再発性アフタ頻発者に対して乳酸菌飲料を一定期間連続飲用させ, 再発性アフタの消失あるいは症状軽減がみられることを報告している。そこで本研究では, 質問調査法により再発性アフタの罹患状態を調査するとともに, 再発性アフタが頻繁に発現するヒト(アフタ群)と再発性アフタが発現しないヒト(非アフタ群)を選択し, 両群の単純ヘルペスウイルス抗体保有率, 唾液中の総菌数, グラム陽性カクラーゼ陽性球菌の比率, 唾液分泌型IgA (SIgA)および上皮増殖因子(EGF)量を測定するとともに, アフタ群に乳酸菌飲料を1か月間連続飲用させ, 飲用後の上記項目を検索して飲用前と比較し, 再発性アフタに対する乳酸菌飲料の飲用効果について以下の成績を得た。質問調査では259名中221名(85%)が再発性アフタに罹患しており, 再発間隔は不定期(55%)がもっとも多かった。単純ヘルペスウイルス抗体保有率は, 両群間で差がみられなかった。唾液中の総菌数とグラム陽性カクラーゼ陽性球菌の比率の平均は, アフタ群が非アフタ群よりも高い値を示した。SIgAおよびEGF量もアフタ群の方が高い値を示したが, これらの値に統計学的に有意差は認められなかった。乳酸菌飲料飲用後の質問調査では13名中12名(92%)に再発性アフタの発現の減少あるいは症状の軽減がみられた。総菌数およびグラム陽性カタラーゼ陽性球菌の比率の平均は減少し, なかでも飲用前のグラム陽性カタラーゼ陽性球菌が高率であった群では有意にその比率が低下した。SIgAおよびEGF量の平均は飲用前よりも高くなる傾向がみられたが, 統計学的に有意差は認められなかった。以上の結果から, 乳酸菌飲料にはグラム陽性カタラーゼ陽性球菌を選択的に抑制する働きがあり, グラム陽性カタラーゼ陽性球菌の減少が再発性アフタ発現の減少に関連していると考えられる。

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© 1997 大阪歯科学会
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