歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
共焦点レーザ走査顕微鏡のエナメル質齲蝕への応用
田中 淳司
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1996 年 59 巻 3 号 p. 6-7

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抄録

共焦点レーザ走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy, CLSMと略す.)は分解能が高く, 通常の光学顕微鏡と電子顕微鏡の中間に位置しているため, 生物学の分野でよく用いられるようになった. 齲蝕の観察は従来, 非脱灰や脱灰標本を用いて光顕的あるいは電顕的に行われてきたが, エナメル質の有機質は1%しかないため, 脱灰標本として連続薄切切片を作ることは困難であり, 三次元的な観察はほとんど行われていない. エナメル質齲蝕に対してCLSMを用いることにより, 切片深部の組織学的な断層像を得ることができ, しかも齲蝕病巣の三次元像を容易に詳細に観察できる. 今回, われわれは CLSMのエナメル質齲蝕への応用をはかる目的で, fuchsinで染色したエナメル質齲蝕の観察所見と, 光学顕微鏡, 顕微エックス線写真から得られた所見とを比較検討した. エナメル質齲蝕が認められる抜去歯を砥石で厚さ約200μmの研磨標本とし, 一部は0.5% fuchsin水溶液で染色し封入した. また, fuchsinで染色した研磨標本を, 光学顕微鏡および顕微エックス線写真で観察するとともに, CLSMを用いて, 切片の表層から0.5〜2.0μmの間隔でそれぞれの断層像を観察し, 画像処理によって, 蛍光濃度勾配の解析像や三次元像を得た. なお, アルゴンレーザによる励起波長は488nmで, 波長535nm と 590nmのバリアーフィルターを用い, それぞれCH1(緑色)とCH2(赤色)から入る情報を画面上に表現した. その結果, 次の所見が観察された. 1)エナメル質の健全部はCH1およびCH2を用いて具視化することはできなかった. 2)高倍率の断層像が得られ, これらの断層像をコンピュータで処理することにより, エナメル質齲蝕の崩壊状態を三次元的に観察できた. 3)病巣の表層部ではCH1およびCH2の観察で不規則なエナメル小柱構造を呈した蛍光が, そして顕微エックス線写真ではエックス線不透過像としてそれぞれ観察された. 4)病巣体部の中心部ではCH2の蛍光が, 顕微エックス線写真では透過像がそれぞれみられた. また, 不透明層ではCH1とCH2あるいはCH2のみの蛍光で, 透明層はCH1およびCH2ともに減弱して観察された. 病変の認められないエナメル質ではCH1およびCH2ともに蛍光は認められず, 顕微エックス線写真では不透過像としてみられた. 5)病巣体部に連続するエナメル質でもエナメル小柱の中心部あるいは周辺部に病変が認められる所見があった. 6)表層下脱灰では表層よりやや象牙質側でエナメル小柱の中心部が破壊されていた. しかし, 表層部では不規則なエナメル小柱がみられた. 7)エナメル葉様構造物に沿っても象牙質に近いエナメル質で病変がみられ, この病変は光学顕微鏡および顕微エックス線写真のいずれでも観察することができず, CLSMではこの構造物は, その周辺のエナメル小柱中心部および小柱周辺部で側方に拡大されていた. また, その構造物と接する象牙質においても病変が拡大していた. 以上のことから, エナメル質齲蝕のCLSMによる観察では, 酸あるいは機械的な操作の加わっていない intactなエナメル質においても, 従来の組織像とほぼ同様の所見がみられ, さらに光学顕微鏡では具視化しにくい所見が組織レベルでの断層像として得られ, しかもこれらが三次元的に観察できることから, 齲蝕の観察にはCLSMが有用であることが示唆される.

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© 1996 大阪歯科学会
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