歯科医学
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ランタン・酸化ジルコニウム含有ヒドロキシアパタイト誘発腫瘍のフィブリルコラーゲン
内田 実藤田 厚
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1993 年 56 巻 5 号 p. 361-375

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抄録

 人工歯根材料の開発および異物埋入による腫瘍発生機構解明への基礎的資料を得る目的で、各種アパタイト焼結体をラット皮下に埋入して誘発された実験腫瘍を用い、そのフィブリルコラーゲンの型および架橋の挙動に関する生化学的情報を得た。さらに、埋入焼結体周囲の線維性被膜フィブリルコラーゲンを対象とした分析結果と対比することにより、フィブリルコラーゲンと埋入体による腫瘍の発生や形質発現との関連性についても検討を加えた。
 酸化ジルコニウム・ランタン含有ヒドロキシアパタイト焼結体の埋入により悪性腫瘍が高率に誘発された。腫瘍組織のコラーゲンはペプシン消化で高率に可溶化され、その分子種は I 型、III 型(構成比 71:29)および微量の V 型によって構成されていることを分別塩析、アミノ酸分析および SDS-PAGE により同定した。また、架橋結合をアミノ酸分析改変法、HPLC および蛍光分析法により分析し、ピリジノリン、ヒスチジノアラニンおよびメイラード反応による架橋を検出した。一方、アパタイト焼結体を包む被膜のコラーゲンはペプシン可溶化率が低く、また、I 型コラーゲンが高率を占め、III 型は約10%であった。被膜においては、ピリジノリンおよびヒスチジノアラニン架橋はほとんど検出されず、メイラード反応による架橋の形成が進行していた。
 以上のフィブリルコラーゲンについての結果から、被膜内の細胞は環境因子としてのコラーゲンの線維化と過剰な蓄積により形質転換を起こして発癌にいたる可能性が高いことを示唆している。さらに、腫瘍が発生すると、コラーゲンは腫瘍の発育・増殖に伴って間質を形成しながら、細胞成分の外部環境を維持するとともに、腫瘍の発育増殖にふさわしい場を提供するものと考えられる。

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© 1993 大阪歯科学会
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