歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
第三大臼歯の発育についての臨床的研究 : オルソパントモグラムによる観察
田中 利一
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1992 年 55 巻 5 号 p. g29-g30

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抄録

ヒ卜の歯は, 人類学的, 系統発生学上退化器官に属し, 進化とともに数の減少と, 形態縮小や単純化に移行する傾向にある. とくに, 第三大臼歯は他の歯より, これらの傾向が著しく, 日常臨床においてたいへん興味深いものがある. しかし, 発育や発生時期が他の大臼歯よりはるかに遅れていることや, 発育期間がきわめて長く, かつ変異に富んでおり, 先天的欠如や, 石灰化しても顎骨内に止まり萌出にいたらない個体が多い. そのうえ, 第三大臼歯の発育についての研究は, デンタル型エックス線, オルソパントモグラムによる先人の観察例がいくつかあるが, その数はきわめて少なく, 第三大臼歯の発育状態を正しく把握されていない. そこで, 著者は, オルソパントモグラムを用いて, 第三大臼歯の石灰化時期ならびに成人初期における第三大臼歯の存在傾向などについて臨床的観察を行い, 第三大臼歯の発育状態を把握することを目的として本研究に着手した. 研究材料としては, 大阪歯科大学附属病院小児歯科外来に来院した患者 (1980年4月1日〜1990年3月31日まで), および1974年〜1990年に大阪歯科大学歯科放射線学講座の学生相互実習 (第5学年) で撮影したオルソパントモグラムを用いた. そのうち, 無歯症, 全身疾患などの障害を認める症例, エックス線写真像上で第三大臼歯を抜歯したと判定された症例, 1例も石灰化を認められなかった7歳未満の小児をさらに除外し, 小児9,111名 (男子4,646名, 女子4,465名) と学生2,769名 (男子2,312名, 女子457名) を調査した. なお, これらのオルソパントモグラムは, すべてORTHOPANTOMOGRAPH OP3, OP5 (PALOMEX-SIEMENS社製) を用いて大阪歯科大学附属病院歯科放射線科で撮影されたものである. 研究方法としては, 小児のオルソパントモグラムを月齢別に分類して, 第三大臼歯の石灰化開始時期, 歯冠完成時期および各年齢における石灰化の有無と発育 (石灰化) 段階について調査した. なお, 歯の発育 (石灰化) 段階の判定は, Moorrees et al. の判定基準に従って14段階に分類し, それぞれを0〜14点までの数値に置き換えて示した. 一方, 学生のオルソパントモグラムでは, 第三大臼歯の存在型, 萌出方向を1) 垂直型, 2) 近心型, 3) 水平型, 4) 遠心型および5) 頬側あるいは舌側方向型に分類した. その結果, 次のような結論を得た. 1) 第三大臼歯の石灰化の開始は, 男女子とも上顎歯では7歳6か月, 下顎歯では7歳0か月に認められた. その平均年齢は, 上顎歯で男子 : 9歳4か月, 女子 : 9歳2か月, 下顎歯で男子 : 9歳1か月, 女子 : 8歳9か月であった. 2) 第三大臼歯の歯冠完成時期の平均年齢は, 上顎歯では男子 : 11歳8か月, 女子 : 11歳5か月, 下顎歯では男子 : 12歳4か月, 女子 : 12歳3か月であった. 3) 13歳以上での第三大臼歯の歯胚の存在率は, 男子では上顎歯 : 約70%, 下顎歯 : 約75%, 女子では上顎歯 : 約65%, 下顎歯 : 約80%であった. 4) 第三大臼歯の4歯存在型は, 男子 : 約52%, 女子 : 約41%, また4歯すべての欠如型は, 男子 : 約10%, 女子 : 約12%であった. 5) 第三大臼歯の萌出方向は, 垂直型が最も多く, 男子では上顎歯 : 約70%, 下顎歯 : 約45%, 女子においては, 上顎歯 : 約50%, 下顎歯 : 約40%を占めた, 6) 第三大臼歯の矮小歯は, 上顎歯のみに出現した. 7) 第三大臼歯の欠如は, 男子よりも女子に, 下顎歯よりも上顎歯に多かった. 以上の結果を先人の報告と比較検討すると, 石灰化時期はやや早くなっており, 先天欠如歯が多い上顎側切歯や下顎第二小臼歯がより多く認められ退化傾向がより著しいことを認めた. また, 近年小児の顎骨の発育不良により, 例え石灰化が起こっていても正しく萌出しない傾向が強かった. これらのことから, 第三大臼歯の現状が把握でき, 小児歯科学臨床における咬合誘導などの指針の一助となることが明らかになった.

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© 1992 大阪歯科学会
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