日本の水稲栽培において,最適管理条件で得られる試験場収量と生産者収量にどの程度の差があるのか広域で評価された例はない.本研究では,まず試験場収量を収録した奨励品種決定基本調査成績データベースを活用して,主要8品種について土壌可給態N,施肥量や日最高・最低気温,日射量を説明変数とする収量推定モデルを構築することを目的とした.次に,モデルによる推定値と作況調査の収量を比較することで,試験場と生産者との収量差を評価した.モデルは,部分的最小二乗回帰 (PLS),ランダムフォレスト (RF),勾配ブースティング決定木のXGBoost (XGB) により構築し,推定残差の大きいデータを除去する選別処理の効果と,モデルごとの推定精度について評価した.モデル構築において,学習データに選別処理を行うことでPLSではテストデータの推定精度は向上したが,RFやXGBでは多くの品種で推定精度が低下した.この結果を基に,各手法に適した学習データを用いてテストデータの推定精度を比較すると,品種により精度が優れる計算手法は異なった.またXGBとRFのいずれにおいても生殖成長期の日最低気温の変数重要度が最も大きく位置付けられていた.秋田県から大分県までの21府県を対象に,各計算手法により推定した府県別平均収量は,作況収量と直線的な相関関係があり,個々の構築したモデルは収量の環境反応を良く説明できていると考えられた.これらの比較から,試験場収量は生産者収量よりも平均すると56.1 kg 10 a–1高いことが明らかとなった.