日本作物学会紀事
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登熟初期に遮光を受けたイネでおきる最終子実重減少は子実の発育能力低下にもとづかない
小葉田 亨菅原 誠
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2000 年 69 巻 3 号 p. 413-418

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抄録

イネでは出穂後約10日間の登熟初期(DAY0-10)に子実への同化産物供給が遮光などにより不足すると, 子実の乾物増加(ΔG)が早期に停止してしまい茎葉に乾物が再蓄積する, いわゆる子実発育停止がおきることが知られている.しかし, このような子実重の低下が, 子実の乾物増加能力(ΔGP)が常に十分に発揮できるような同化産物条件のもとで観察されたのかどうかは明確でない.そこで, 本研究は登熟初期の遮光によるΔGの低下は, ΔGPが減少したためではなく, ΔGPを満たすだけの同化産物の供給がなされないためであることをモデル解析で明らかにしようとした.DAY0-10のみを3段階の強度で遮光し, その後遮光を除いたところ, 子実乾物重は遮光強度に応じて低下し, 強遮光区では登熟後期に茎葉部の乾物再蓄積が観察された.一方, 10日おきに対照区の栽植密度を半減するように間引いて受光条件を改善し, 十分な同化産物供給条件のもとでのΔGPを推定した.ΔGPの変化パターンと穂揃期茎葉部非構造性炭水化物量を固定し, 全植物体の乾物増加速度(ΔW)の観察値のみを入力変数とするモデルで子実と茎葉部乾物重の推移を計算した.その結果, 遮光による登熟中期にまで及ぶΔWの抑制がΔGPの高い時期と重なり最終子実乾物重の低下を, その後のΔWの回復が茎葉部に乾物再蓄積を起こした.この計算結果は子実と茎葉部重の実測値変化をよく再現していた.以上から, 登熟初期に遮光を受けたイネで起きる子実乾物重低下と登熟後期の茎葉部乾物再蓄積は, 子実の乾物増加能力の低下を仮定しなくても起きることがわかった.

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