日本作物学会紀事
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イネの脱粒性に関する研究 : 第1報 脱離部の形態
江幡 守衛田代 亨
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1990 年 59 巻 1 号 p. 63-71

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抄録

イネの脱粒性の難易と脱離部の形態との関係を調べ, 離層崩壊の品種的差異を走査型電子顕微鏡で観察した。離層は小穂軸と小枝梗の接点に形成され, 両者の組織は大きさ, 配列が異なり, 脱離面は小穂軸側では凹面 (脱離孔), 小枝梗側では凸面 (脱離円蓋) をなす。脱粒抵抗強度と脱離面, 維管束, 小枝梗などの太さとの相関関係は必ずしも高くないが, 脱離円蓋の高さとは負の, 脱離角度とは正の高い相関関係を示した。離層は若い穎果では分離せず, 成熟に伴い周辺部から内部に向い分離が進む。内護穎側では分離が顕著で, 厚壁繊維組織の発達は弱い。脱粒易品種では離層部で脱粒し, 成熟や脱水により分離が助長され脱粒抵抗強度も低下する。脱粒難品種では離層形成は弱く, 小枝梗折損型の脱離を示し, 成熟や脱水でかえって脱粒抵抗強度が高められる。弱勢穎果は強勢穎果に較べ脱離部の形態的発達は劣るが, 離層の分離はよく, 脱粒抵抗強度は小さい。しかし脱粒難品種では小枝梗折損型脱離の割合が高い。離層細胞の細胞壁は周辺部ほど薄く, 崩壊し易い。脱離部中央の維管束鞘外側には離層形成の微弱な厚壁繊維組織が発達し, この発達は脱粒難品種ほど顕著である。離層細胞と離層細胞に接する細胞とは壁孔によって連絡しているが, 壁孔の密度は脱粒難品種ほど高い。野生稲では離層形成が維管束鞘部にまで及び, 厚壁繊維細胞の発達は極めて弱いことが高脱粒性の要因と考えられた。一般に脱粒性の難易は離層と繊維組織の相対的な発達程度に支配され, 脱粒難品種では厚壁繊維組織の機械的強度によるものと思われる。

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