Experimental Animals
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第8回実験動物病態病理集談会記録ラット唾液腺涙腺炎 (SDA) をめぐって
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1980 年 29 巻 1 号 p. 127-131

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抄録

ラット唾液腺涙腺炎 (SDA) はいうまでもなくラットを用いた実験に従事する者の最大の関心事のひとつであり, それによる被害は具体的には明らかにされていないとはいえ, 甚大なものと考えられる。数年前から, この病気について種々の面からの報告があいついでいるが, 病気の姿を正しく把み, 理解するためには焦点をしぼり, 同じ場で現在迄の経験を紹介しあうことが最も有効であろうと考え, このミニ・シンポジウムを計画した。
依頼した演者の講演要旨は以下に収録されているが, 参加者86名 (内会員48名) という盛会で, 予定通り当日9時から12時迄, 時間一杯充実した勉強に時が過ぎるのを忘れた。最後に中川雅郎博士が締めくくられたように, SDAの輸廓がかなりはっきりしたように感じた。各演者の話と質疑を通じ, 討論の焦点となったことは, すべて以下に整理したように, その場で明快な解答が与えられるものではなく, ほとんどが今後の解明が待たれるものであった。
1.SDAの病態について: 最大公約数的なことはわかったというものの, 系統および生後日齢と感受性の関係, 移行抗体の問題, あるいは飼育環境による病状の差 (二次感染の問題) などについては, 同じ条件で比較検討した成績を見た上でないと厳密な論議はできないと思われる。実際的な問題として, 消毒の効果を判断するためのおとり動物としては, どんなものが適当かということも簡単には決め難い。
2.SDAウイルスと似たウイルスの存在について: SDAとの関係あるいは病原性などが不明のコロナウイルスの分離について報告があったが, 血清学的な診断との関係もあり, ラットのコロナウイルスについて, とくに生物学的な面でさらに検討し, 整理することが必要と考えられる。
3.病理発生について: 自然界におけるSDAウイルスの生態の解明と一言でいえば簡単であるが, 発生を防止するためには, carrier stateあるいはreservoirなどの問題を明らかにし, どこでSDA伝播の鎖を断つかということが問題になると思われ, まず個体レベルにおけるSDAの病理発生についての早急な解明が望まれる。ブタの伝染性胃腸炎あるいはニワトリの伝染性気管支炎のような, 昔から有名なコロナウイルス感染症にアナロジーを求めるのも一つの手法であろうと思う。また, 前立腺, 甲状腺あるいは肺などにみられる変化とSDAの関係も話題になったが, これらの問題も多角的な検索により始めて解明されるものと考えられる。

© 社団法人日本実験動物学会
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