2006 年 60 巻 2 号 p. 93-111
後期白亜紀の濃飛流紋岩瀬戸川火山灰流シート(AFS)を例に,イグニンブライトの全岩化学組成の意味について検討した.瀬戸川AFSは,他の陥没カルデラを埋積したイグニンブライトと同様に,溶結・脱ガラス化・熱水変質作用を受けている.しかし,モード組成に対応した上下方向の組成累帯が化学組成においても保持されていること,火山-深成コンプレックスをなすと考えられる花崗岩類と同様の化学組成を示すことから,変質作用による化学組成への影響は小さいと考えられる.化学組成の比較の結果,微量の石質粒子の混入によるマトリックスの化学組成への影響はほとんどないと判断される.マトリックスはガラス片を選択的に失っており,本来の組成よりもわずかに苦鉄質な組成にシフトしているが,本質岩片の組成トレンドから大きくは外れない.瀬戸川AFSのマグマは液体部分が主体であったため,選択的損失による化学組成への影響は比較的小さかったと考えられる.マトリックスは本質岩片よりも化学組成にまとまりがあり,火砕流の噴火から定置までの過程における火砕物の混合により,マトリックスが形成されたと言える.以上のようなマトリックスの特徴を考慮すると,イグニンブライトの大部分はマトリックスで構成されるので,イグニンブライトの全岩化学組成は噴出したマグマの平均組成を捉える上では有用であると結論づけられる.