地球科学
Online ISSN : 2189-7212
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地震地質学に関する試論
鈴木 尉元
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2004 年 58 巻 5 号 p. 263-278

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抄録

本州西部は,1995年の兵庫県南部地震,2000年の鳥取県西部地震,2001年の芸予地震が次々と発生したが,これまでのこの地域の地震の発生様式から,南海地震の発生が危惧される.なお,兵庫県南部地震に際しての水準点の改測によって,同地震が,六甲山地の隆起,その前縁地域の地塊運動にともなって発生したもので,被害が集中した地域は,この地塊運動が行われた地域であったことが明らかにされた.本州中央部は,1800年代の中頃から1900年代初期,1920年代から1940年代にかけては地震の活動期で,中部山地の周辺地域で次ぎつぎに地震が発生した.この地域には,浅発地震に加えて中深発地震の活動が活発に行われているが,それらの活動は,幅約100kmの地震活動の不活発な地帯をはさんだ南北ないし北西-南東方向の帯状地域に行われ,規模の大きな浅発地震の活動は,この中深発地震の活動地帯に行われる傾向がある.中深発地震にともなう断層は,一般に山地では正断層,平野や湾では逆断層である.このことば,山地では数100kmの深部から垂直に突き上げるような力が働いていることを示唆している.平野や湾の逆断層は,山地の隆起に伴う側圧によるものと考えられる.信濃川地震帯は,地質学的には鮮新世後期から更新世の魚沼層群の堆積盆地沿いに形成されているもので,現在は新潟平野,十日町盆地,長野盆地などに引き継がれている.この地震帯に沿っては,浅発地震と中発地震の活動が行われている.これらの地震にともなう断層は,浅発地震では,走向は魚沼層群の盆地の縁辺に平行し,丘陵側から平野ないし盆地側へのしあげるようなセンスの逆断層にともなったものである.中発地震も,走向は盆地の縁辺に平行し,やはり丘陵側が隆起し,平野ないし盆地が沈降するようなセンスの正断層にともなったものである.日本列島の一等水準点の改測結果は,日本列島が現在さかんに隆起運動を行っていることを示している.一等三角点の改測結果は,山地の周辺地域に剪断歪みが集中し,そこに破壊的地震が発生することを示している.地震活動は,中国・四国地方,中部・関東地方といった構造単元の隆起運動にともなって行われるので,地震予知計画は,このような単元の測地学的変動と地震活動の観測結果に基づいて行われる必要があると考える.

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© 2004 地学団体研究会
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