2012 年 35 巻 5 号 p. 5_13-5_24
日本の一医療機関で生体肝移植ドナーを体験した人々の『口を閉ざす行動』を背景にある文化を明らかにする。ドナー経験者10名とレシピエント3名に対して,半構成的面接で調査し,Geertzの解釈人類学をもとに分析した。「家族を助ける崇高な存在としてのドナー像の再生産」のために,〈家族の“美しい物語”のなかでドナー役割をとり続ける苦悩〉をし,〈「家族全体を救う存在としてのドナー」になる演出〉をしながら,〈「移植」と「家」で区別される秘密の開示の有無〉の選択をしていた。
また,「移植医療で置き去りにされるドナー」として,〈当事者不在のドナーの安全神話〉〈「自発的意思」という権力装置〉〈肝臓を提供することだけを要求する医師〉,そして〈生体肝移植ドナーに対する世間の無理解〉によって口を閉ざすことを強いられていた。この研究から,医療者はドナーの体験に対して真摯に耳を傾けるケアを行う必要がある,という示唆を得た。