本研究は,転倒につながる主観的事象をアセスメントできるレベルに表現できることを目的に,認知機能が低下している施設高齢者の生活環境における転倒に関する主観的事象の言語化を試みた。対象者は女性高齢者2名であった。研究方法は,行動と環境の相互作用があることを考慮し行動分析法を活用した観察と聞き取り,および照度や高さなどの客観的データも収集した。結果,A氏からは〈歩行の方向は前向き以外となっていないか〉〈歩行時,身体の重心が支持基底面からはずれていないか〉などが,B氏からは〈不安があるため出歩いていないか〉〈歩行経路の照度は移動に十分な明るさか〉などが言語化された。B氏においては0~1Lx程度の照度のホールで,食事用の机を「材木」と錯覚した。これらのことから,言語化の際には運動学の専門的知識,ならびに個人の生活過程や価値観を含める必要があることがわかった。