自己誘発性嘔吐を伴う摂食障害症例は嘔吐時の胃酸や嘔吐物による歯の酸蝕のため,冷水痛を訴えることがまれではない.そこで,嘔吐時の歯面保護を目的としたマウスガードの冷水痛に対する効果を計るため,酸蝕による度重なる上顎前歯の冷水痛を訴え,通常の処置によっても症状が再発した摂食障害症例4例を対象とし,マウスガード装着頻度と冷水痛の再発頻度について調査した.結果として,ほぼ毎回装着していた3例では冷水痛の再発は認められなかった.また時々しかできなかった1例では冷水痛の再発を認めたが,その間隔は装着前に比べ著しく長期化した.これは嘔吐物や胃酸の歯面への直接接触を回避できるため,酸蝕の進行を遅らせ防御反応である第二象牙質の形成を促進できたためと考えられた.また摂食障害への影響としては嘔吐の肯定につながる可能性もある反面,支持的精神療法や認知行動療法に応用できる可能性もあり,さらなる検討が必要である.