2006 年 46 巻 8 号 p. 719-726
【目的】医学教育の目的は知識・技術・態度であるが,昨今,わが国では態度教育の必要性について議論されるとこうが大きい.態度教育は医師としてのマナー,エチケット,コミュニケーション,倫理,治療的自我と幅が広いが,その背景に心身医学的・全人的患者理解,すなわち,メディカル・ヒューマニティの実践のための知識・技術がなければならない.【対象と方法】日本医師会が行った「かかりつけ医の調査」(1994年, 6,644人)をもとに,医師の知識・技術・態度に関してのアンケート調査を市民を対象に行い(2002年,355人),結果を解析した.【結果】結果は,両調査ともほぼ共通であり,かかりつけ医を選んだ理由は,「近い」がもっとも多く,かかりつけ医に対する不満は,「医師の態度」すなわち,「コミュニケーション」に対してがもっとも大きかつた.【考察】コアカリキュラムの登場以降,全人的医療が叫ばれることが増えたが,医学教育の現場では心身医学教育はそれほど浸透しているとはいえない.PBL(problem based learning)でも「行動」という項目がありながら,ほとんど無視されたり,見当違いな指摘が平然とされている.身体・心理・社会・実存的な患者理解やバリント方式に従った医師-患者関係の構築,さらにsalutogenesis(健康創成論)を導入した医療をメディカル・ヒューマニティの文脈からもっと強調してよいだろう.今日,わが国をはじめ,先進国では相補代替医療や東西医学の融合といつた統合医療が展開してきているが,それらの背景にも心身医学は必須であり,行き着くところは全人的医療であると考える.