2004 年 31 巻 1 号 p. 56-62
本研究では,ラットを用いて後肢懸垂モデルおよび関節ギプス固定モデルの二種の骨格筋萎縮モデルを作成し、それぞれの異なる萎縮モデルでの骨格筋における力学特性を調べると共に,筋の伸張運動に対する筋の力学特性の変化を検討する目的で,次のような実験を行った。1)摘出したラットヒラメ筋標本を用い,筋を伸長した時の張力の変化(他動張力)を測定した。2)筋標本を伸長・弛緩を繰り返した後(持続的な他動伸張運動)の他動張力を測定した。3)筋標本を断裂が生じるまで伸長し続け,その時の張力変化を測定した。その結果,他動張力は二種モデルで異なった力学特性を示し,正常節と比較して,後肢懸垂モデルでは他動張力の低下,ギプス固定モデルでは増加することが明らかとなった。また,10分間の持続的な他動伸張運動によりギプス固定モデルの他動張力を減少させる効果が得られた。一方,筋断裂までの他動張力の変化を測定すると,筋の伸長に伴い他動張力は増加し,筋の断裂が生じる直前には急激な張力の上昇が確認できた。これらの結果から,個々の病態により,他動張力が低下,増加などの変化を示すことや筋の断裂時には急激な張力の増加が観察され,注意が必要なことが示唆された。また,他動張力が増加した病態では,持続的な他動運動を行うことで他動張力が回復することが明確になり,ラットヒラメ筋に対する他動運動の効果が示唆された。