日本障害者歯科学会雑誌
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原著
Down症候群由来歯肉線維芽細胞に対するPorphyromonas gingivalis産生酵素PepDの影響
田中 陽子矢口 学野村 宇稔市川 一國根岸 浩二小野 晃弘桒原 紀子野本 たかと
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2021 年 42 巻 1 号 p. 43-52

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抄録

Down症候群(DS)は,重篤な歯周病の罹患率が高いことが知られている.糖非分解性細菌であるPorphyromonas gingivalisP.g)は,エネルギーの獲得のために多くのタンパク分解酵素を産生する.これらが病原因子として着目されてきているが,重篤な歯周疾患に多く検出されるⅡ型P.gで特に発現量が高いタンパク分解酵素のPepDの歯肉線維芽細胞(hGF)への影響についての報告はない.今回,PepDがhGFにおける炎症期と増殖期に与える影響を調べた.さらに,DS由来hGF(DGF)は健常者由来hGF(NGF)よりもPepDの影響を強く受けるのかを検証した.

リコンビナントPepD(rPepD)を添加したNGFとDGFにおいてタンパク産生量,遺伝子発現,転写因子のリン酸化の検出ならびにスクラッチアッセイによる細胞増殖能の確認をした.rPepD添加群のNGF,DGFともに非添加群に比べてIL-6,IL-8の発現が有意に上昇した.転写因子のnuclear factor kappa B(NF-κB)p65のリン酸化がrPepD非添加群より添加群で高かったことからPepDはNF-κBを介した炎症経路に影響を与える可能性が示唆された.増殖因子であるEGF,FGFの遺伝子発現もrPepD非添加群より添加群で上昇し細胞増殖能も誘導していることから増殖期にも影響を与える可能性が示唆された.さらに,rPepD添加群のDGFはNGFよりも反応が高く,PepDはDSにおける重篤な歯周病の原因となる可能性があると思われた.

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