2015 年 55 巻 3 号 p. 196-204
低炭素鋼を用い,塩浴軟窒化処理によって表面に形成するリチウム鉄酸化層,ε-Fe2-3N相を主体とするポーラス層,およびε-Fe2-3N相とγ′-Fe4N相からなる化合物層のそれぞれが,耐食性と摩擦摩耗特性に及ぼす影響を調査した。耐食性は,SPCC鋼を用い5%塩水噴霧試験ならびに電気化学的試験により腐食電位とアノード分極曲線を測定した。また摩擦摩耗特性は,S15C鋼を用いボールオンディスク型試験機を用いた面圧1.73〜2.05 GPaの乾式条件で評価した。その結果,リチウム鉄酸化層の存在は,耐食性を著しく高めるのに対し,ポーラス層は逆に低下させること,化合物層については,窒素濃度がγ′相よりも高いε相が優れた耐食性を示すことが明らかとなった。また,摩擦摩耗特性については,リチウム鉄酸化層は金属間の凝着抑制効果が高いこと,一方ポーラス層はその多孔質による面圧分散効果が高いことによって,優れた耐摩耗性を示すことが分った。化合物層では,ε相に比べ靱性に優れるγ′相の方が,脆性亀裂の発生に起因する窒素拡散層界面からの剥離の程度が少ないため結果として耐摩耗性は良好であることも判明した。