昭和医学会雑誌
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末梢神経の再生と筋膜結合組織管の神経導管としての可能性
佐々木 英悟土佐 泰祥保阪 善昭塚越 卓
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2000 年 60 巻 4 号 p. 487-492

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抄録

形成外科領域においては, 神経欠損部が非常に長い場合や移植床の瘢痕が高度で神経移植では機能回復が期待できない場合には血管柄付神経移植術を行うことがある.しかし, 神経移植術, 遊離血管柄付神経移植術は神経採取によるなんらかの犠牲を伴うため, 神経欠損部に管腔を移植するいわゆる神経導管が研究されている.一方, 基底膜を構成する代表的糖タンパク質であるラミニンの神経成長促進作用が注目され神経導管にラミニンを付加した実験も行われている.われわれは, 従来より家兎の腰背筋膜より作成した導管を筋膜結合組織管と称し, その代用血管としての可能性について検討してきたが, 筋膜結合組織管を神経欠損部に対する神経導管として用いることが出来ないかと考え基礎的な実験研究を行った.実験は12羽の体重約3kgの日本白色家兎を用いて行った.筋膜結合組織管の作成は, 家兎の腰背筋膜でシリコンロッドを包み込み, 辺縁をナイロン糸で縫合固定して大腿部皮下に2週間埋め込み, それを取り出してグルタールアルデヒドを用いて管腔構造を維持できるように硬化処理をして行った.このようにして作成した筋膜結合組織管を, その兎の一側の坐骨神経切断部に移植した.反対側にはコントロールとしてシリコンチューブを移植した.移植後3週間後, 6週間後, 9週間後の時点でそれぞれ4羽ずつ屠殺し神経の再生を確認した.また, 移植導管の切片標本を作成し, 再生神経を光学顕微鏡で観察した.その結果, 筋膜結合組織管移植群とシリコンチューブ移植群で同程度の神経再生を認めた.われわれが神経導管として用いた筋膜結合組織管は, (1) 自家組織を用いているため異物反応の心配がなく再手術による摘出も要さない, (2) 筋膜結合組織管の径を自由に変えて作成できる, (3) 管腔構造を維持できる, などの特徴がある.また抗ラミニン抗体と抗メロシン抗体による免疫染色の結果, 筋膜結合組織管にラミニン, メロシンが含まれることが確認できている.臨床的には, 外傷による神経の小欠損などの場合には直接神経縫合を行えば縫合部に強い緊張がかかることがあり, 他の部位からの神経採取を余儀なくされることがしばしばあるが, この方法を用いることで神経採取などの犠牲もなく緊張を減少させ, 神経再生をうながすことが可能になり, 神経損傷の治療方法のひとつとして良い方法になりうると考えている.

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