昭和医学会雑誌
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Pilomatrixomaおよび若干の角化症ならびに角化性腫瘍におけるDACM染色による-SH基, S-S結合の分布, 挙動について (第一報)
小野 真理子川口 紀子
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1982 年 42 巻 2 号 p. 175-191

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抄録

-SH基特異螢光試薬N- (7-dimethyl-amino-4-methylcoumarinyl) maleimide (DACM) を用いた小川らの方法で, Pilomatrixoma (7例) と若干の角化症ならびに角化性腫瘍など計18例について-SH基, S-S結合の分布と挙動を観察し, 光顕所見と比較検討し, 次のような結果を得た.1) Pilomatrixoma i) 病理組織像で毛球部の組織構築に似た所見, 表皮嚢腫様変化, 脂腺細胞様変化, 角球などが確認された.ii) DACM染色螢光所見では-SH基は移行細胞帯に (〓) , 好塩基性細胞, 陰影細胞はともに (-) で, 一方S-S結合では陰影細胞に (〓) , 移行細胞帯は (〓) ~ (-) , 好塩基性細胞は (-) の所見であり, 表皮細胞の角化形成と異つていた.iii) 以上の病理組織像, DACM染色所見によると, 本症の腫瘍実質細胞は角化傾向をもち, 毛母細胞あるいはprimary epithelial germ cellないしimmature pluripotential cellを発生母地とし, immature haircortex cellへの分化を示すという見解が適切であると考えた.2) Trichilemmomaの-SH基染色は澄明細胞が (±) , 胞巣辺縁のbasaloid cellは (〓) の螢光が認められ, S-S結合染色では両者ともに陰性であった.従ってtrichilemmal keratinizationは表皮ならびに毛と内毛根鞘の角化とは異ることが支持された.3) Pilar cystとEpidermal cystの嚢腫壁, 嚢腫内容はともに正常表皮と同様のDACM染色所見を呈したが, Pilar cystでは-SH基強陽性を示すkeratogenous zoneがみられなかったので, この角化は特異な角化と考えた.4) 有棘細胞癌, Keratoacanthomaなどの角化傾向の強い腫瘍細胞は-SH基染色で細胞質, 核に螢光が認められ, 細胞質における-SH基に富む蛋白のoverproductionが示唆された.一方S-S結合染色では角質真珠, 個細胞角化部位に強い螢光がみられた.5) Hyperkeratosis lenticularis perstansでは顆粒細胞, 角質細胞の細胞質に-SH基の螢光がみられ, 顆粒細胞において-SH基に富む蛋白が大量に生じ, しかも酸化されないということが推察された.皮角でも同様の所見が得られた.6) Darier病においては, -SH基は角層から顆粒層の細胞膜に認められ, 一部の角質細胞, 棘融解細胞の細胞質にも認められた.またS-S結合は, 角質細胞膜, 棘融解細胞膜, corps rondに認められた.7) 治療前の乾癬で, 錯角化の強いものでは治療中の乾癬に比較して, 顆粒層から角層に-SH基が豊富である所見が観察できた.8) 以上, 小川らのDACM染色法は従来のnitroprusside法やBarrnett-Seligman法に比較して, -SH基特異性が極めて高く, 反応速度が早く容易に褪色せず, 操作が簡単で組織の損傷が少ないなどの利点があり, 現在のところ表皮の分化 (角化) と異化 (異常角化) を検索する上で最も簡便で推奨される組織化学的方法の1つであると言える.

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