日本皮膚科学会雑誌
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メラニン色素と重金属殊に銅並びに亞鉛との関係に就て
野崎 憲久
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1960 年 70 巻 8 号 p. 835-

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抄録

周知の如く生体に於けるメラニンの生成機轉は頻る煩雑でtyrosine,tyrosinase,銅その他の金属元素,SH基,温度等直接色素形成に関與すると思われる因子の外に,下垂体(MSH),下垂体副腎系機能,副腎等の内分泌器官等の中樞的因子の支配にも與り,更に之等臓器を介して自律神経とも密接な関係が推測されている.かく種々なる分野に於いて古来内外多数の研究者達により膨大な研究業績の輩出を見るに拘らずメラニンの化学的本態が今日尚明白にされていないのは,メラニンが一つには凡ての溶媒に難溶性で純化が困難であるため,更にはその生成機序に參與する因子が極めて複雑多岐に亘るためで,その組成も黒色の重合体として所謂melanoidと蛋白の結合体であろうという程度しか判つていない状態である.然し乍ら1917年Blochがdopaoxydase説を発表してメラニン形成機序に劃期的一石を投じて以降,Fitzpatrick et al.が人間皮膚より組織化学的にtyrosinaseを証明しその性状が次第に解明されるに從つてSH基,金属元素等の因子が酵素作用に於いて果す役割も究明され,メラニンの生化学的性質の解決に曙光を見出しつゝある.金属元素殊に銅がメラニン色素に及ぼす影響に関しては,それが必須因子であることが既に古くより知られ,in vitro,in vivoでの観察が行われており,Kubowitz,Keilin & Manがtyrosinaseを銅蛋白複合体としてその活性に対する銅の意義を見出してより多数の研究者の文献に接し得るが,今日尚お生体内での銅等の代謝が十分解明されておらず色素形成に関しても之が酵素賦活性及びSH基との関連等その全貌を探究し得た所迄行かず,更にその量的実測値に就ても先達の成績が一定していない爲メラニンと銅の関係を論ずるに当つても矢張り多くの疑義を差狭んでいる実状である.著者は数年前より一つには金屬元素定量に関する先達の業績間に相当の差異を認めるに鑑み,組織内含有銅其他の金屬量を正確に知りたかつたこと並びにメラニン色素と銅其他の金屬元素間に果して有意の関連ありやという点の解決を念願として実驗に着手し,定性試驗は無機ペーパークロマトグラフ法で,定量試驗は混合比色定量法(本学理学部菅原研究室の指導による)によつて各種資料に就て檢索したが,一應見るべき成績を得たと考えられたので茲にその知見を報告したい.尚お本定量実驗はこれを以て完了したものでなく更に目的の核心に接近したいと意圖しているが茲に現在までの成績を取纏めて一文としたものである.

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