2010 年 120 巻 4 号 p. 871-880
一地域におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴を比較検討したデータは見あたらない.2003年1月から2007年12月までの5年間に,当院(熊本県天草市)を受診したウイルス性疣贅と伝染性軟属腫患者について統計的観察を行った.この間の全初診患者65,838名中,ウイルス性疣贅は1,701例(男女比1:1.09),伝染性軟属腫は1,328例(男女比1:0.95)であった.月別初診数は,ウイルス性疣贅では8月が,伝染性軟属腫では5月が最も多かった.罹患年齢については,ウイルス性疣贅は0歳から88歳にわたり8歳にピークがあるのに対し,伝染性軟属腫では0歳から77歳にわたり3歳にピークがあった.ウイルス性疣贅に比べ,伝染性軟属腫により低年齢で罹患する傾向は同一個体内でも見られ,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫両方に罹患した197例中,伝染性軟属腫に先に罹患した例は162例と圧倒的に多かった.ウイルス性疣贅ではまた,臨床型別にも年齢分布の違いがみられた.発症部位については,ウイルス性疣贅は四肢に,伝染性軟属腫は体幹に広範囲に生じていた.ウイルス性疣贅のうち尋常性疣贅とミルメシアは足,扁平疣贅は上肢に好発していた.また,アトピー性皮膚炎を含む湿疹性病変が,ウイルス性疣贅では6.9%に,伝染性軟属腫では15.7%にみられた.家族内発症は伝染性軟属腫に多く,ウイルス性疣贅の299名(19.1%)に対し,366名(33.2%)であった.今回の検討で,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的事項の違いが明瞭になった.違いの理由として,原因ウイルスの標的年齢,標的部位,潜伏期間や感染力の違いなどウイルス側因子,湿疹性病変の有無など宿主側因子,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫治療における考え方の違いなど社会的因子の影響を考えた.