バイオフィリア リハビリテーション学会研究大会予稿集
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21世紀リハ研 バイオフィリア リハビリテーション学会研究部会
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第4回21世紀リハ研究会 2000年8月5日 (復刻)
私の経験
岡本 雄三
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p. 973-

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抄録

私は過疎と老化が我国の中でも最も進行している地域で過去30年間、身体障害者巡回相談及び在宅重度身体障害者訪問診査事業にたずさわって参りました。1200例を超える在宅寝たきり者を診察して感じた事は、此の方々には一応のレベルの医療を受け施設リハビリの体験者でもあり、現在も往診を受け服薬を続けているにも拘わらず、寝たきり状態を脱することが出来ていないという状況が多く見られました。

田舎では因習的な家族関係もあって、寝たきり者のお世話をしているのは、妻か息子の嫁である場合が多いのですが、血縁関係はなくても、昼夜の別なく介護をしているのは本当に頭が下がりますが、世代交代の希望もないままに、これらの介護者も次第に病み老いて行きます。そして、次の寝たきり要員になって行く事は目に見えているのです。

昭和50年代から特別養護老人ホームの設置が進められました。当初はがら空で、私も訪問先で熱心に入所を進めている内に、何時しか満杯になり、60年代後半から平成にかけ老人保健施設が随所に建設されました。

厚生省の箱物政策が一応功を奏して介護家族の負担は一応解消されたように見えましたが、今度は一変して在宅医療在宅復帰の号令を発しています。

入所に慣れた高齢化地域では寝たきり老人を介護する力が最早ありません。皆様も同じ様な悩みをお持ちでしょうが、入所者の体調の良い温暖な季節を選んでは家庭にお引取り願ったり、たらい廻しのショートステイ等でゴマ化しているのが現状ではないでしょうか。しかし、このゴマ化しも厳冬の年の瀬を迎えると、もろくも崩れさって多くの方々が年寄りの掃除風邪と共に空しくあの世へ旅立って行きます。重荷をおろした様な家族のホットした顔を見る度に例えようもない寂しさを感じるのは私一人ではないでしょう。

人間至る所青山ありとは云え、褥瘡とオムツの悪臭の中で人生の終焉を迎える事は決して幸せではないと思います。

老いて死を迎える事は当然と云えば当然でしょうが、少なくともその前に生きる喜びと死ぬ勇気を持つ事が出来ないでしょうか。

屎尿臭の漂う日当りの良くない部屋の片隅で空しく死をまつばかりの寝たきり者のうつろな瞳には元気な頃、よく口にする何時死んでも良いと云う勇気や決断は見られません。

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© 2013 バイオフィリア リハビリテーション学会
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