霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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ポスター発表
ニホンザルのストレス感受性や攻撃性にCOMT遺伝子は影響を与えるか
上田 悠一朗井上 英治
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p. 59-

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抄録

ヒトやラットにおいて、カテコールアミンの分解酵素であるCOMTの活性が低いと高い攻撃性を示すことが報告されている。ニホンザルでは、COMT遺伝子内にSNP(G/T)があり、COMTの酵素活性が低いとされるTアリルを持つと、糞中のコルチゾール濃度が高いこと、寛容性の程度が低い集団でTアリルの頻度が高い傾向にあることが報告されている。本研究では、そのSNPがニホンザル個体の行動に与える影響について、京都市の嵐山モンキーパークいわたやまにおいて、嵐山E群のニホンザルを対象に研究を行った。糞由来DNAを用いて110個体の遺伝子型を決定した後、5歳以上のメス14個体を観察対象とし、1分ごとの近接個体数、攻撃行動、セルフスクラッチ回数を記録した。一般化線形混合モデルを実行し、遺伝子型、年齢、順位、血縁者数の行動への影響を解析した。その結果、Tアリルを持つメスでは近接個体数が少なく、近接相手をオトナオスに限定した場合も、同様の結果が得られた。また、攻撃行動の解析では、Tアリルを持つメスの方が攻撃回数が少ないことが示され、またセルフスクラッチの解析では、遺伝子型を含むモデルは選択されなかった。以上の結果は、Tアリルを持つメスが他個体との距離を保ち、ストレスを回避していることを示唆している。また、先行研究の結果から攻撃回数が多く、セルフスクラッチが多いと予想したが、近接個体数が少ないことが影響し、攻撃回数は少なく、セルフスクラッチの頻度にも影響しなかったと考えられる。本研究により、Tアリルを持つメスは、近接個体数が多い環境を避けることで、攻撃交渉などストレスがかかる状況を回避していることが示唆された。嵐山群は餌まき時の個体の凝集性が低い集団であるが、Tアリルを持つメスが緊張度の高い状況を避けたことが影響しているのではないかと考えられる。

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