霊長類研究 Supplement
第35回日本霊長類学会大会
セッションID: P10
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ポスター発表
ゲノムワイドSNPを利用した和歌山タイワンザル交雑個体群の集団史推定
*伊藤 毅木村 亮介濱田 穣若森 参手塚 あゆみ永野 惇川本 芳
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抄録

外来生物から在来生物への遺伝子浸透は,在来生物の遺伝的多様性を撹乱する可能性のあるものとして問題視されることがあるが,その実態は必ずしも十分に理解されていない。外来生物と在来生物の交雑がどのように進行したのかを理解することは,交雑個体群の管理戦略を立てるうえで重要である。本研究は,和歌山県におけるタイワインザルとニホンザルの交雑個体群(2017年に根絶が公表された)を例にとり,ゲノムワイドな一塩基多型(SNP)を利用した集団史推定の手法を開発することを目的とした。2003年から2006年に捕獲された287個体を対象にRAD-Seq解析を行い,SNPを探索した。種間で顕著に分化していた約300個のSNPから交雑率と種間ヘテロ接合率を計算し,それらの二次元度数分布(オスについては,これにY染色体上のマーカーの祖先タイプを加えた三次元度数分布)を要約統計量とした近似ベイズ計算を実行することで,モデルの選択と移入率等のパラメータの推定を行った。交雑個体群は,ニホンザルタイプのmtDNAがほとんど見られなかったことから,タイワンザルの個体群にニホンザルのオスが移入することで形成されたと考えられている。本研究は,この従来モデルをベースとし、さらに分集団構造を仮定したモデルを検討した。結果,交雑率の分布が二峰性を示すことなどから,単一集団のランダムな交雑モデルでは観察されたデータをうまく説明できず,分集団構造を仮定したモデルの可能性が高いことが示された。本知見は,交雑個体群の動態のモニタリングに役立つことが期待される。一方で,モデル選択とパラメータ推定の確信性や解像度は検討の余地を残しており,遺伝子頻度が確率論的な変動に影響を受けやすい小さな個体群を対象とした集団史推定の難しさも浮き彫りになった。今後,より多くのデータを用いた手法の改良が期待される。

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© 2019 日本霊長類学会
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