霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: A13
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口頭発表
チンパンジー大腿骨頸部の骨密度と緻密骨厚の特徴
*松村 秋芳鶴 智太岡田 守彦
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抄録

骨の形質は動物の日常生活行動における負荷をよく反映する。チンパンジーの移動運動様式と大腿骨頸部の機能形態との関係を調べるために,pQCT骨密度測定装置XCT Research SA+(Stratec Medizintechnik GmbH)を用いて,チンパンジー(Pan troglodytes)大腿骨頸部の長軸に沿った5横断面のスライスについて緻密骨密度,海綿骨密度,緻密骨の厚さを分析した(n=8;獨協医大所蔵標本)。緻密骨の密度と厚さについては,1横断面につきそれぞれの周径に沿って8か所,1個体につき5断面40か所の測定を行った。チンパンジー大腿骨頸部の長軸に沿った骨密度は基部で高く,骨頭に近づくにつれて低くなった。各横断面スライス内の骨密度は部位によってばらつきが認められたが,5断面のどのレベルにおいても上部がほかの部位に比べて低くなる傾向を示した。緻密骨の厚さは5断面とも上部が下部に比べて相対的に薄かった。これらの結果は,チンパンジーの日常生活における大腿骨頸部の上部への負荷が,下部やほかの部位よりも少ないことを示している。また,今回上前部の緻密骨厚は,下部を除く他の部位よりも相対的に大きい傾向を示したが,この所見は,対象標本の異なる先行研究(松村他,第28回大会)の結果を裏付けるものであった。このような,大腿骨頸部の上前部に認められる緻密骨厚が大きい特徴が,化石人類オロリン・ツゲネンシス(Orrorin tugenensis)の大腿骨頸部横断面に見られる緻密骨の厚さの特徴と一致するかどうかについて検討を加えた。

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© 2017 日本霊長類学会
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