霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: P24
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ポスター発表
定期的な超音波検査がニホンザル(Macaca fuscata)の性周期に与える影響
印藤 頼子南 晶子兼子 明久佐藤 容木下 こづえ柳川 洋二郎永野 昌志岡本 宗裕
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抄録

我々は疾患モデルや貴重な遺伝子疾患個体を維持するため、ニホンザルの人工繁殖、特に人工授精技術の確立に取組んでいる。効率的に繁殖を制御するには、メスの排卵日を予測する卵巣動態の観察が不可欠である。アカゲザルでは、超音波診断装置(エコー)により卵巣動態の観察が報告されており、定期的な保定と飼育環境の変化という心因性ストレスは、性周期には影響しないことが報告されている。そこで我々は、ニホンザルにおいても定期的なエコーにより卵巣動態の観察が可能であると考えた。個別飼育下の4~9歳のメスザル3個体を11月~12月の1ヶ月間、週3回1日15分間保定し、エコーによる卵巣動態の観察を行った。また、8歳の1個体は麻酔下でエコーによる観察を同様の期間、週2回行った。実験期間中毎日採尿を行い、尿中のエストロゲンとプロジェステロンの代謝物(E1G、PdG)の量を測定するとともに、月経出血の有無を確認した。その結果、無麻酔エコーを行った3個体中2個体では月経出血が観察され、エコーにより卵胞の発育とその後の排卵が確認できた。しかし、残り1個体と麻酔下でエコーを実施した1個体では月経出血が認められず、卵胞の発育・排卵も確認できなかった。そこで、実験期間終了後、平常飼育下で4 個体の観察および採尿を続け、ホルモン動態とコルチゾール量を実験期間中と比較検討した。その結果、排卵した2個体では実験期間中と平常時でコルチゾール量に差はなかったが、卵胞の発育・月経出血の見られなかった2個体では平常時に比べ実験期間中で有意に高いことが示された。また、これら2個体のE1GとPdG値は実験期間中、排卵前に見られるE1Gの増加および排卵後に起こるPdGの増加が見られなかった。我々は、エコーは卵巣動態の観察に有用と考えたが、以上の結果からニホンザルでは個体によって頻回のエコー検査がストレスとなり、性周期に影響を及ぼすことが示唆された。

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© 2016 日本霊長類学会
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