マガスカルに生息するワオキツネザル(Lemur catta)は、近年の生息地破壊等により、個体数減少が危惧されており、国際自然保護連合により絶滅危惧(IB類)に指定されている。種保存の観点から、野生状態での保護とともに、飼育個体の継続可能な繁殖管理が重要な課題である。
現在、日本国内では400頭以上のワオキツネザルが飼育されている。しかし、国内で飼育するワオキツネザルは血統管理が十分でなく、父親の特定もできていないため、持続可能な繁殖計画を立てることが難しい。そのため、国内の約1/4の飼育個体数を占める日本モンキーセンター(以下JMC)で飼育する82頭のワオキツネザルの父系の血統を把握したうえで、家系図を作成し、遺伝的多様性の維持が可能となるような繁殖計画への反映を目的として、本研究は、2012年よりスタートした。
これまでの研究は、始めに父系判定が可能かどうかを調査するため、繁殖に関与する性成熟雄14個体について遺伝子型分析を行った。分析には、マダガスカル島のベレンティ保護区に生息するワオキツネザルを対象におこなわれているマイクロサテライトDNA多型分析で用いられたマーカーのうち6つを利用した。その結果、父系判定に十分な遺伝子多型を持つことが判明した。次に、23個体の複雄複雌群の母と子のマイクロサテライトDNA多型分析を行った。性成熟雄14頭を分析したときと同じ6マーカーを使用し分析を行った。これまでに母子関係が確認できた20個体について父系の特定が完了している。
現在は、DNA調製から、PCRまでの工程をJMC内で行えるように環境を整えた。さらに、試料の採取法や遺伝子型判定に2段階PCR法を採用して改良を加えている。
今後は、まだ父系の特定ができていない個体について解析し、その結果を元に繁殖計画を作り、国内のワオキツネザル飼育機関での繁殖管理に資する情報を提供することが課題である。