霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P26
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ポスター発表
屋久島の野生ニホンザルによる採食樹木の利用の空間構造
D. S. SPRAGUE西川 真里
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抄録

霊長類の集団による遊動域の利用は空間的に均一ではなく、集中して利用するコア地域のように空間的な偏りが存在する場合が多い。また、このような空間的な偏りを検出する統計解析手法も多数提案されている。本研究では屋久島の野生ニホンザルが採食した樹木の利用に空間的な偏りが存在するかを二つの手法で解析した。オトナメス6頭の追跡観察から得たデータをもとに、観察個体が採食に利用した樹木における滞在時間及び利用日数を対象に、分布のクラスター化を検定するMoran's I自己相関解析とHot-Spot解析を実施した。それぞれの解析で有意なクラスター化が検出され、樹木滞在時間及び樹木利用日数に空間的な偏りが存在することが示唆された。Hot-Spot解析の場合、有意にhot spot又はcold spotに加わる樹木が特定された。ただし、樹木滞在時間のMoran's I自己相関の場合、有意度は弱く、遊動域の片方に分布が偏る2種の樹木に解析結果が依存していた。この2種をサンプルから除外するとMoran's I自己相関は有意ではなかった。更に、特定の樹種1種毎のMoran's I自己相関は樹木滞在時間では全種、樹木利用日数では1種を除き全種で有意とはならなかった。これらの結果は解析手法の特徴を反映していると解釈できるが、ニホンザルによる樹木利用の特性を表しているとも解釈できる。すなわち、樹木利用の空間的偏りは特定の樹種の頻繁な利用によるものではなく、異なる分布を持つ複数の樹種の利用のなかから発生すると考えられる。また、利用日数の高い樹木は分布がより集中していたが、他の行動との関連によって利用日数が影響される可能性も考慮する必要がある。

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© 2015 日本霊長類学会
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