霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P18
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ポスター発表
京都市動物園における飼育下霊長類4種における系列学習-霊長類の知性を展示する-
田中 正之松永 雅之島田 かなえ伊藤 二三夫佐々木 智子
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抄録

京都市動物園では,2008年より園で飼育する霊長類を対象に,アラビア数字を用いた系列学習課題に参加する機会を与え,その学習の様子を公開している。この学習課題には,本来高い知性をもつ霊長類に対して,彼らの知性を発揮する機会を与える認知エンリッチメントの側面をもつとともに,課題の成功時にわずかのりんご片を報酬として与えることで採食エンリッチメントの側面ももつ。また来園者に対しては,学習に取り組む様子を観察する機会を与えることで,霊長類のもつ高い知性を垣間見ることのできる「知性の展示」としての側面をもつ。対象としたは,京都市動物園で飼育されているチンパンジー6個体,ニシゴリラ3個体,シロテテナガザル2個体,マンドリル6個体の4種17個体である。課題は15インチタッチモニター上にランダムに提示されるアラビア数字を,昇順に触れていくことであった。初期画面では画面中央下に白い円が提示され,これに触れると,アラビア数字が提示された。正しい順序で触れた数字は消えてゆき,すべての数字が消えると,画面に「せいかい(正解)」という視覚的フィードバックが表れ,チャイムが鳴り,りんご片が報酬として与えられる。途中で間違った数字に触れると,画面がブラックアウトし,初期画面に戻る。学習基準を連続する100試行中75試行正解が2回続くこととし,基準に到達すれば,数系列を1つ増やした。2015年4月時点で,もっとも系列長が長い個体はチンパンジーの大人オス個体で,12数字の系列学習が規準に到達している。もっとも学習速度の速いのは,ニシゴリラの子ども個体で,11か月間で10数字の系列を学習した。学習では種を問わず,子ども個体ほど初期の学習速度が速い「年齢効果」が顕著に見られている一方,到達レベルでは種による差はほとんど見られなかった。霊長類の学習の様子は,ガイドや講演などの教材として活用している。

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© 2015 日本霊長類学会
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