霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: C1-1
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口頭発表
mtDNAから見た岡山産ヌートリア Myocasor coypusの遺伝的特徴ならびに分布拡大様式
*河村 功一*加藤 真友美*貸谷 康宏*河東 重光*小林 秀司
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抄録

 ヌートリアは南米原産の大型齧歯類であり,現在,日本各地に生息する集団は 1939年に北米から導入された 150個体に由来するとされている.しかし,日本産ヌートリアの遺伝的特徴はよく判っていない.今回,本研究では日本における代表的生息地である岡山の集団を対象に mtDNA分析を行い,集団構造と分布拡大様式の推定を試みた.
 岡山県内9地点で採集された62個体を分析に用いた.mtDNAのCytb領域とD-loop領域について直接塩基決定法によるhaplotypeの決定を行い,領域毎の haplotype多様度( h)を求めた.次にD-loop領域についてhaplotype networkの構築とhaplotypeの地図上へmappingを行い分布拡大様式を推定した.
 Cytb領域において検出された haplotypeは CbAと CbBの 2 つのみであり ( h=0.389),GenBank情報から何れもラプラタ川流域に生息するM. c. bonariensisの可能性が高い事が明らかとなった.各haplotypeの分布について見ると CbAは岡山全域で見られたのに対し,CbBは吉井川東岸においてのみ認められた.D-loop領域後半部においては主に CA repeatを motifとする μ SATが存在し,CbAにおいては13(DlA1-13),CbBにおいては 6 (DlB1- 6)の計19のsubhaplotype (h=0.911)が確認された.この中で DlA1と DlA2は岡山全域で認められたのに対し,他の subhaplotypeは地域固有性が高く,DlA1から派生的なものほど児島湾流入河川の上流域に分布する傾向が高い事が明らかとなった.
 Cytb領域における遺伝的多様性の低さは,岡山集団における過去の大規模な遺伝的ボトルネックの存在を示すと共に,分布拡大が複数の地点から生じた可能性を示唆している.これに対し,D-loop領域において Cytb領域とは異なる高い遺伝的多様性が認められた理由として,ヌートリアのD-loop領域における高い突然変異率を挙げることができ, subhaplotypeの分布様式は本種の分布拡大が三浦(1976)が述べている児島湾を中心としたものである事を裏付けている.

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© 2013 日本霊長類学会
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