霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-11
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口頭発表
果実生産の季節性が果実食霊長類のバイオマスと種数に影響する
*半谷 吾郎STEVENSON PabloVAN NOORDWIJK MariaWONG Te Siew金森 朝子久世 濃子相場 慎一郎CHAPMAN Colin A.VAN SCHAIK Carel
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抄録

 動物の数と多様性の決定要因を明らかにすることは、動物生態学の根幹の一つである。食物の量が霊長類の数や多様性と相関があることはよく知られているが、食物の利用可能性は季節的に変動する。季節性の影響を検討した研究のほとんどは、食物利用可能性の季節性を直接検討しておらず、雨量の季節性など、間接的な指標を用いていた。霊長類を対象としたこれらの研究では、季節性の明瞭な影響は見出されておらず、年間の食物の総量と、季節性の大きさの両方の影響を検討した研究はこれまでほとんどなかった。
 本研究では、文献検索とわれわれの未発表資料のメタ解析を通じて、アジア、アフリカ、中南米の16の霊長類群集を対象に、果実の年間の総生産量と、果実生産の季節性が、果実食霊長類のバイオマスと種多様性に与える影響を明らかにした。果実生産については果実トラップによって集められた、果実落下のデータを用いた。
 バイオマスに関する最適モデルには、年間の総果実量(+)、果実生産の季節性(-)、生物地理要因(旧世界>新世界、大陸>島)が含まれ、これらの要因によってバイオマスの変異の56-67%が説明された。種数に関しては、最適モデルは果実生産の季節性(-)、生物地理要因(旧世界>新世界、大陸>島)が含まれていたが、年間の総果実量は含まれていなかった。最適モデルはデータに見られる変異の34%を説明できた。これらの要因に加え、気象がさらに影響しているかどうかを調べたところ、バイオマスに関しては、気温がさらに付加的に影響していた。
 霊長類は季節性に対するさまざまな適応をしているが、そのような適応は万能ではなく、年間の食物量が同じでも、季節性の大きな環境では、霊長類の数は負の影響を受けることが示された。食物に加えて、気温がさらにバイオマスに付加的な影響を及ぼしていたことから、食物に加えて、体温調節のコストもバイオマスの制限要因になっていると考えられる。

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© 2011 日本霊長類学会
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