目的)これまで演者らは、中部山岳地方ならびに北関東に生息している個体のミトコンドリアDNAのDループ可変域、412塩基対をPCRで増幅し塩基配列の解読作業を行ってきた。現在までのところ、11のハプロタイプが検出されている。今回の発表では、今まで情報の少なかった、南関東地方、特に神奈川県に生息している個体から試料を採取し同法にて塩基配列の解読を行った。
方法)神奈川県に生息しているニホンザル3つの地域個体群、南秋川、丹沢、西湘で採取された合計20個体のミトコンドリアDNAのDループ可変域、412塩基対について解読作業を行った。DNAの抽出は、市販されているキットQIAamp DNA Micro Kit(QIAGEN社)を用いてProtocolの指示に従いゲノムDNAを含むすべてのDNAの抽出を行った。抽出したDNAを鋳型にミトコンドリアDNAのDループ可変域、412塩基対についてPCR法による増幅を試みた。用いたプライマーの塩基配列はHayasaka et al. 1991より引用した。塩基配列の解読はPCRダイレクトシーケンス法を用いて実施した。
結果と考察)神奈川県内3つの地域個体群に4つのハプロタイプを確認した。ハプロタイプの違いの理由は、最終氷期の間に分断隔離された地域個体群に生じた分化が反映している可能性がある。また、有害駆除や市街地や道路などの人口産物の影響により過去に連続して分布していた群れは分断孤立、もしくは絶滅した結果、遺伝的な違いが観察された可能性もある。今回の結果は、将来、ニホンザルの保護管理遂行する上での重要な基礎資料の一部になると考えられた。