日本臨床免疫学会総会抄録集
Online ISSN : 1880-3296
ISSN-L : 1880-3296
第36回日本臨床免疫学会総会抄録集
セッションID: S4-3
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DNA損傷修復異常の分子基盤
*高木 正稔
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キーワード: ATM, DNA損傷応答機構
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抄録

先天性免疫不全症の多くの責任遺伝子が明らかにされてきた中でDNA損傷応答機構にかかわる遺伝子の変異が多く見出されてきている。このDNA損傷応答機構にかかわる遺伝子はDNAの非相同末端再結合(NHEJ)や相同組換え(HR)を介してDNA修復に深くかかわり、免疫グロブリンやT細胞受容体遺伝子の再構成に重要な役割を担っている。毛細血管拡張性小脳失調症Ataxia Telangiectasia(A-T)は小脳失調、毛細血管拡張、免疫不全を主徴とし、20-30%に悪性腫瘍を合併する。その他の臨床症状として、早老症や耐糖能異常を示すことで知られている。A-Tの責任遺伝子ATMは1996年にYosef Shilohらによりクローニングされた。ATMはホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)ドメインを持つタンパク質でDNA障害により活性化されタンパク質キナーゼとして働き、下流に位置するp53やBRCA1などをリン酸化し、DNA損傷応答機構の上で中心的な役割を持つ重要なタンパク質であることが知られている。しかしその機能は多岐にとみ、ATMのDNA損傷応答機構における役割、発がんにおける役割に関しては研究が進んでいるが、A-T患者の主要な表現系である小脳失調、毛細血管拡張、免疫不全の発症機序に関してはいまだ研究が進んでいない。ATM以外にもDNA損傷応答機構にかかわる遺伝子の異常による先天性免疫不全症としてArtemis遺伝子の変異が放射線高感受性重症複合型免疫不全症(RS-SCID)に、DNA ligase IVに変異を持つ一群がligase IV症候群として分類されてきた。今後、免疫の発達に伴うDNA損傷応答機構の役割についてより詳細な研究が進むことが予想される。DNA損傷応答機構の理解とそこにかかわる分子の機能を中心に最近の研究成果を紹介したい。

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© 2008 日本臨床免疫学会
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