日本臨床免疫学会総会抄録集
Online ISSN : 1880-3296
ISSN-L : 1880-3296
第36回日本臨床免疫学会総会抄録集
セッションID: S3-2
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多発性硬化症の病態解析から治療標的の同定へ
*山村 隆
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キーワード: 多発性硬化症
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抄録

ヒト免疫疾患の治療法開発に至る道筋は単一ではなく、さまざまなアプローチがある。マウス免疫学の理論に立脚する開発戦略は、種々の治療薬の開発につながった。しかし「マウスとヒトの違い」や「免疫学ドグマのある種の脆弱さ」を考慮すれば、マウス免疫学から出発するのが常に正しいとは限らない。支援技術の発達した今日では、ヒトの臨床材料を解析することによって、病態に関連する中核分子を同定し、そこから、先の展開を考えるアプローチも有用である。実際、ヒト試料を網羅的に解析することによって、新たな治療薬や治療戦略の同定につながる例が散見される。本講演では、患者血液T細胞サンプルの解析から、新たな治療標的を同定しようとする我々の試みを紹介する。多発性硬化症(MS)は、自己反応性T細胞によって誘導される中枢神経系の自己免疫疾患である。従来、末梢血に存在する自己反応性T細胞はごく少数であり、末梢血をバルクで解析しても意味のある情報は得られないとも言われていた。我々は患者T細胞をDNAマイクロアレイで解析することにより、MSにおいて特異的な発現亢進を示す遺伝子NR4A2を同定した。NR4A2はMSの動物モデルEAEの発症早期の中枢神経浸潤T細胞において特異的に亢進していた。NR4A2は家族性パーキンソン病の原因遺伝子の一つであることが知られているが、NR4A2の結合するDNA配列はTh17細胞の転写因子RORγtの結合配列と重なることから、我々は同分子のサイトカイン産生に対する影響を評価した。その結果、NR4A2はIL-17やIFN-γなどの炎症性サイトカイン産生を介在する転写因子で、NR4A2をsiRNAで阻害することにより、EAEモデルを抑制することがわかった (PNAS 105:8381, 2008)。臨床材料から出発するアプローチによって、新たな炎症制御の道筋が提示された一例と考える。

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© 2008 日本臨床免疫学会
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