近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 110
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入院期心不全一症例の大腿四頭筋に対する電気刺激療法の試み
*吉田 陽亮藤川 和仁庄本 康治
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キーワード: 心不全, 電気刺激, 筋力増強
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抄録

【目的】
 急性期心不全症例では、早期からのデコンディショニング予防が重要であるが、安静臥床を余儀なくされ、積極的な運動療法を実施できない重症例も多い。近年、骨格筋に対する神経筋電気刺激(以下NMES)が、少ない心負荷で骨格筋の筋力向上や末梢循環を改善させるとの先行研究が散見される。しかし、先行研究でのNMESの方法は様々であり、本邦ではほとんど実施されていないのが現状である。我々は今回、心不全一症例の大腿四頭筋に対して入院早期からNMESを実施する機会を得たので考察を加えて報告する。
【方法】
 本症例は心不全急性増悪(NYHA_III_)にて当院入院となった80歳代男性である。入院前ADLは運動習慣のない屋内生活自立レベルであった。通常の運動療法に、両下肢へのNMESを追加した。 NMESはIntelect Mobile Stimを使用し、ベッド上背臥位にて実施した。NMESプロトコルは、二相性対称性パルス波、周波数80pps、 パルス持続時間300μsec、オンタイム10sec、オフタイム30sec、30分/日、6日/週×4週間とした。電流強度は、右下肢は不随意的最大筋収縮誘発レベル、左下肢は筋収縮の生じないレベルで実施し、日々の電流強度を記録した。右下肢には0.75 kgの重錘を負荷した。電極は自着性電極(5×9_cm_)を使用し、事前に同定した大腿神経、大腿直筋、内側広筋、外側広筋のモーターポイントに貼付した。評価項目は、膝関節90°屈曲位の端座位にて大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC)をHand held dynamometerで測定した。また、筋持久力として最大筋力の30%重錘負荷にて1回/2秒の膝伸展運動が連続可能であった回数を測定した。評価はNMES介入前と介入4週後に実施し、左右下肢の筋力・筋持久力の増加率を比較した。またNMES介入時の内省報告も調査した。リスク管理としてNMES実施時10分毎の血圧、心拍数、不整脈、ST変化を監視し、NMES実施後の遅発性筋肉痛(DOMS)や皮膚への影響の有無も調査した。
【説明と同意】
 本症例には本研究の目的を十分に説明し、文書での同意を得た上で計測を実施した。
【結果】
 入院後5日目にベッド上廃用予防より開始し、座位負荷、立位負荷、足踏み負荷から入院後14日目より病棟廊下での歩行負荷へと進め、入院後38日目には200m連続歩行可能となり退院に至った。右大腿四頭筋への最大電流強度は1週目30.2±2.3mA、2週目44±4.8mA、4週目では50±0.5mAまで増加した。内省報告は、介入1週目の「痛い、怖い」から4週目では「心地良い」へと変化した。MVICは、NMES介入前では右16.1 kgf/左15.0 kgf、介入後では右18.9kgf/左16.7 kgf、増加率は右17.4%/左11.3%であった。筋持久力は、NMES介入前では右19回/左17回、介入後では右34回/左27回、増加率は右78.9%/左58.8%であった。NMES実施時の著明なバイタル変化、DOMSや皮膚のかぶれなどは認められなかった。
【考察】
 右下肢への電流強度は、開始時より大きく増加し、また内省報告にも前向きな変化を認めた。これはNMESに対する痛みの耐性が増加し、恐怖感が低下したためと考えられた。NMES開始1週間前後は恐怖感や不快感が強いことが予想されるので、電流強度を症例自身が決定し、2週目以降から徐々に電流強度を増大する方法が実用的であることが示唆された。今回は筋収縮力を強くするために重錘負荷下で4枚の電極を使用し、大腿神経と3つのモーターポイントを刺激したが、痛みも少なく、電流強度も向上し、十分に実用的であったと考える。多くの先行研究では、6~8週間程度の治療期間で、全刺激時間は177分~5600分の範囲である。今回は4週間の治療期間で全刺激時間は180分と比較的短時間であったが、筋力・筋持久力の増加傾向がみられ、本邦の日常の臨床で実用的に実施可能であると考えられた。また、低周波数(10-15pps)にて実施した先行研究では、骨格筋有酸素能は増加するが、筋力増強効果は少なかったと報告している。近年の研究にて、高周波数で実施するとType_II_線維が特異的に刺激されると報告されている。心不全症例の大腿四頭筋はType_II_線維が大半であり、今回のプロトコルによって選択的に刺激できたと考える。今後はオンオフタイム、治療時間、周波数、電極設置などをコントロールして調査したい。
 NMES実施時のバイタルの著明な変化やDOMSは認められなかったことから、重度の入院期心不全症例において、安全に実施可能であると予想されるが、今後は血液検査などの測定により影響を把握しなければならない。
【理学療法研究としての意義】
 急性期心不全症例に対するNMESの安全性及び筋力増強効果が示されることで、早期離床困難な重症心不全症例のデコンディショニング予防が可能となる。

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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