近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 105
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立ち上がり動作における体幹の加速度変化
-健常者における検討-
*城戸 悠佑北原 あゆみ九鬼 智子熊崎 大輔大工谷 新一
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抄録

【目的】立ち上がり動作の改善のためには、個別に筋力増強練習を実施するのみではなく、動作速度やタイミングの取り方に考慮する必要がある(萩原ら2008)。そこで、立ち上がり動作の反復練習に有効な動作速度やタイミングの取り方を検出するための前段階として、健常者の立ち上がり動作において体幹に発生する加速度の様相について検討することを本実験の目的とした。
【方法】対象は、整形外科学的、神経学的に問題のない健常成人20名(男性13名、女性7名)とした。測定は、加速度センサー(ユニメック社製)を用いて、立ち上がり動作における体幹(体幹上部と骨盤)の加速度を記録した。加速度センサーは、体幹上部については胸骨柄、骨盤については仙骨上左右の上後腸骨棘の中間に各々配置した。被験者には座面高を下腿長に設定した背もたれのない座面高調整可能な台上で、大腿中央部が台の端に位置するように端座位をとらせた。そして、両上肢は体側に垂らした状態を開始姿勢として立ち上がり動作を行った。立ち上がり動作は、足部の位置から2種類の課題を設定した。すなわち、足部の位置を任意としたもの(以下、足部任意)と、両膝関節80°屈曲位で足部が膝関節部より前方としたもの(以下、足部前方)であった。立ち上がり動作はそれぞれ5回ずつ実施し、体幹上部と骨盤の上下および前後方向の加速度を記録した。なお、加速度波形はサンプリング周波数60Hz、カットオフ周波数6Hzにて記録し、加速度の立ち上がり潜時と最大値を算出した。
【説明と同意】本実験に際し、被験者には本実験の意義と目的、方法について十分な説明を行い、同意を得た。
【結果】前後方向の加速度の立ち上がり潜時については、前方・後方の順に、足部任意では体幹上部1.01秒・0.6秒、骨盤1.08秒・0.87秒で、足部前方では同様に1.08秒・0.64秒、1.21秒・0.99秒であった。つまり、体幹上部、骨盤ともに前方への加速度の立ち上がり潜時が後方と比較して有意に長かった(p<0.05)。また、足部任意の場合、足部前方の場合の双方で体幹上部における前方加速度の立ち上がり潜時は骨盤と比較して有意に短かった(p<0.05)。前方への加速度の最大値は、足部任意では体幹上部8.80m/s2、骨盤5.45m/s2であり、足部前方では同様に13.62m/s2、7.48m/s2であり、足部任意、足部前方ともに骨盤と比較して体幹上部で有意に高値を呈した(p<0.05)。また、足部任意と足部前方とを比較すると、足部前方の方が有意に高値を示した(p<0.05)。
 上下方向の加速度の立ち上がり潜時については、上方、下方の順に、足部任意では体幹上部0.69秒・1.11秒、骨盤0.68秒・0.86秒で、足部前方では、同様に体幹上部0.70秒・1.29秒、骨盤0.78・0.92秒であった。つまり体幹上部、骨盤ともに下方への立ち上がり潜時が上方と比較して長かった(p<0.05)。下方への加速度の最大値は、足部任意では体幹上部3.58m/s2,骨盤1.95m/s2であり、足部前方では、同様に3.22m/s2、2.03m/s2であり、足部任意、足部前方ともに骨盤と比較して体幹上部で高値を呈した(p<0.05)。
【考察】本実験で設定した健常者における立ち上がり動作では、(1)体幹上部、骨盤ともに前方への加速度が発生する前に後方への加速度が発生し、下方への加速度が発生する前に上方への加速度が発生する、(2) 足部を前方に位置させた方が、体幹上部に発生する前方加速度は骨盤と比較して早く出現し、その値は大きい、(3)前方および下方への加速度は足部の位置に関わらず、骨盤よりも体幹上部で大きいことの3点が明らかとなった。
 (1)については、体幹前傾期における前下方への重心移動のための反動動作によるものと考えられた。(2)の結果は、足部前方の場合には立位での支持基底面が遠いため、レバーアームの長い体幹上部の運動をきっかけとして、足部任意と同様に素早く重心移動距離が長い動作を行うために生じていると考えられた。(3)については、骨盤に比べ体幹上部では距離が長く速度の速い運動を要するためと考えられた。
 本実験では、前後方向、上下方向の加速度について、その立ち上がり潜時と大きさについてのみ検討したが、立ち上がり動作は前下方から上方へと体肢の移動方向が変わるため、加速度の減速成分や方向の変曲点潜時などの検討も今後は必要であると考えられた。
【理学療法研究としての意義】本実験の結果から、立ち上がり動作の練習や介助を行う際には、アラインメントだけでなく、体幹上部と骨盤の運動速度の差や、運動に先立って生じる反動動作にも着目する必要があることが示唆された。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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