近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 104
会議情報

端座位一側下肢挙上位での側方への荷重量の変化が腹斜筋群の筋電図積分値に与える影響
*津江 正樹安井 重男池田 幸司赤松 圭介藤本 将志田尻 恵乃水上 俊樹大沼 俊博渡邊 裕文鈴木 俊明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】脳血管障害片麻痺患者の入浴時における座位でのまたぎ動作において、腹斜筋群の低緊張により座位姿勢を保持しての一側下肢の挙上が困難になることがある。このような症例に対して我々は、座位にて側方への体重移動を促すとともに一側下肢の挙上練習を実施することがある。このとき体重移動側腹斜筋群には伸張位での活動を、また反対側への腹斜筋群には短縮位での活動を促すように配慮をおこなっているが、その明確な筋電図学的検討についての報告は少ない。そこで今回端座位一側下肢挙上位での側方への体重移動が両側内外腹斜筋単独部位・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値に及ぼす影響を検討し、若干の知見を得たので報告する。 【方法】対象は健常男性7名とした。まず被検者に両上肢を胸の前で交差させ、さらに股関節内外旋0°位・屈曲90°位、膝関節屈曲90°位に調節した端座位にて両殿部下に2台の体重計を配置した。このとき殿裂を2台の体重計の中心上に位置させ、各体重計の数値を合計した値を総殿部荷重量とした。次に一側下肢を挙上させるが、このとき挙上側股・膝関節肢位は変化させずに下肢挙上側(以下挙上側)骨盤後傾角度(床への垂線と上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線の垂線のなす角)を10°位に変化させることで下肢を挙上させた。そしてこの肢位を開始肢位として両側内外腹斜筋単独部位・腹斜筋群重層部位の筋電図を筋電計ニュ―ロパック(日本光電)にて5秒間、3回測定し、3回の平均値をもって個人のデータとした。電極位置について内腹斜筋は両側上前腸骨棘を結んだ線より2cm下方の平行線と鼡径部との交点、およびその2cm内方とした。また外腹斜筋は第8肋骨下縁上に電極間距離2cmとした。さらに腹斜筋群重層部位は肋骨下縁より恥骨に向かう線上の近位部に電極間距離2cmとした。次に挙上側と反対側の殿部へ荷重し(以下荷重側)、同様に各筋の筋電図を測定した。このとき荷重量は総殿部荷重量の60%、70%、80%、90%、95%へとランダムに変化させた。そして各課題においては開始肢位にて規定した挙上側骨盤後傾角度、股・膝関節角度を変化させないよう指示した。また頭部は床面に対して垂直位とし、さらに両側肩峰を結ぶ線が水平位となるよう規定した。そして開始肢位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値を求め、端座位一側下肢挙上位での側方への体重移動が両側内外腹斜筋単独部位・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値に与える影響について検討した。尚、統計処理には一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いた。 【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式について同意の得られた被検者を対象に実施した。 【結果】荷重側外腹斜筋・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値相対値は、荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。また荷重側内腹斜筋の筋電図積分値相対値は、荷重量の増大に伴い増加傾向を認めたが、荷重量95%において開始肢位レベルまで減少傾向を認めた。一方、挙上側内外腹斜筋・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値相対値は、荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。 【考察】荷重側外腹斜筋・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値相対値は荷重量の増大に伴って増加傾向を認めた。本課題では、荷重量の増大に伴って荷重側骨盤には後傾・後方回旋しようとすることで、体幹が荷重側後方へ傾斜しようとする働きが生じると考える。これに対し荷重側外腹斜筋・腹斜筋群重層部位は、その制動作用にて肢位保持に関与したと考える。また荷重側内腹斜筋の筋電図積分値相対値は、荷重量の増大に伴って増加傾向を認めたが、荷重量95%では開始肢位レベルまで減少傾向を認めた。本課題において一側殿部への荷重量の増大に伴い、荷重側骨盤には後傾・後方回旋しようとする働きが生じると考える。これらに対し、骨盤の前傾・前方回旋作用にて関与したと考える。さらに荷重量95%において荷重側内腹斜筋の筋電図積分値に減少傾向を認めたことについては、荷重量の増大に伴い荷重側殿部外側面での支持となり、支持面が増大することで荷重側内腹斜筋の関与が減少したと考えられる。一方、荷重量の増大に伴い挙上側内外腹斜筋・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値相対値は増加傾向を認めた。このとき荷重量の増大に伴い、挙上側骨盤において挙上位を認めた。このことから挙上側内外腹斜筋・腹斜筋群重層部位は骨盤の挙上位保持に関与したと考える。 【理学療法学研究としての意義】本研究結果から、座位でのまたぎ動作における初期動作時を想定した一側下肢挙上位での側方への体重移動を促す場合、挙上側・荷重側腹斜筋群の活動についてともに評価し、治療を行なうことの必要性が示唆された。

著者関連情報
© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top