近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 102
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視覚的手がかりがFunctional Reach Testに及ぼす影響
-バランスWiiボードを用いた簡易COP表示ソフトの検討-
*久保田 一誠
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抄録

【目的】
 理学療法における動的バランスの評価は,重心動揺計を用いた方法やFunctional Reach Test(以下,FRT)などで行われる.しかし,重心動揺計は価格面などの問題から臨床現場で実際に利用することが難しい.近年,低価格なNintendoⓇWiiボードを重心動揺計として活用することが期待されているが,精度面などの問題で,実用化までには至っていない.
 今回,NintendoⓇWiiボードを用いて,簡易的に足圧中心点(Center of Pressure:以下,COP)を表示するソフトを開発した.本ソフトで表示したCOP軌跡を視覚的手がかりとしてFRTに及ぼす影響を調べ,COP軌跡を重心動揺計測としてだけでなく,視覚的情報を提供する治療用機器として利用できるかどうかを検討した.
【方法】
 対象は,健常者10名(男性5名,女性5名)とした.対象の年齢は31±9.2歳であった.測定は以下に示す[a][b]の2条件でFRTを右左前3方向に対してそれぞれ実施した.
 条件[a]:[1]最初に通常のFRTを測定する.[2]次に,[1]で測定した値から+5cmのところに付箋を貼り,付箋を注視し,再度FRTを測定する.[3]最後に,もう一度通常のFRTを測定する.
 条件[b]:[1]最初に通常のFRTを測定する.[2]次に,簡易COP表示ソフトの画面を確認しながら,再度FRTを測定する.[3]最後に,もう一度通常のFRTを測定する.
 条件[a]と[b]の順番はランダムとして,十分な間隔を空けた.[1]~[3]は間隔を空けず連続的に測定し,右→左→前の順番で実施した.
 条件[a][b]における右左前3方向に対して,[1]-[2]間・[1]-[3]間及び[2]-[3]間について,対応のあるt検定を用いて分析した.有位水準は5%未満とした.
【説明と同意】
 対象者全員に対し,本研究について十分な説明を行い,同意を得た.
【結果】
 条件[a]-右では,[1]22.5±3.70cm,[2]26.9±3.27cm,[3]25.1±4.38cmであった.
 条件[a]-左では,[1]22.5±5.03cm,[2]26.9±4.57cm,[3]25.9±4.77cmであった.
 条件[a]-前では,[1]31.8±6.18cm,[2]35.9±6.35cm,[3]35.6±6.21cmであった.
 条件[b]-右では,[1]24.0±3.35cm,[2]26.0±3.61cm,[3]25.0±3.16cmであった.
 条件[b]-左では,[1]23.3±4.65cm,[2]24.9±4.77cm,[3]24.8±4.86cmであった.
 条件[b]-前では,[1]32.4±4.16cm,[2]34.0±5.54cm,[3]34.0±5.41cmであった.
条件[a]の[1]-[2]間・[1]-[3]間の全てにおいて有意差がみられた(右[1]-[3]間のみp<0.05,それ以外はp<0.01).また,[2]-[3]間においては,前方向では有意差がみられず,左右2方向では有意差がみられた(p<0.05).条件[b]の[1]-[2]間・[1]-[3]間の全てにおいて有意差がみられた(全てp<0.05).また,[2]-[3]間においては,右左前3方向の全てで有意差がみられなかった.
【考察】
 FRTのパフォーマンスは,ankle strategyやhip strategyなどの運動戦略,体幹の関節可動域,身長・年齢など様々な要因が関係する.計測中の動作観察から,条件[a]では,体幹の過度な屈曲により[2][3]の結果が向上したものと思われる.一方,条件[b]では,hip strategyによる運動戦略により[2][3]の結果が向上したものと思われる.
 バランス能力の再獲得には,適切なフィードバック情報を与えることが重要である.しかし,獲得した能力が,与えられた視覚的手がかりに依存してしまっては,治療としての意義を持つとは言えない.今回,条件[b]の[2]-[3]間で有意差がみられなかったことで,視覚的手がかりにより得られたパフォーマンスが,その影響を取り除いた後も効果が持続されたことが期待される.
【理学療法研究としての意義】
 本研究において,COPの軌跡を重心動揺計測としてだけではなく,視覚的情報を提供する治療用機器として利用できることが示唆された.さらには,汎用ゲーム機であるWiiボードを用いた簡易COP表示ソフトを安価に構築したことで,一般施設においても広く臨床応用できる可能性がある.

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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