近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 53
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急性大動脈解離保存療法患者の理学療法
*山内 真哉笹沼 直樹井谷 祐介眞渕 敏高橋 敬子高橋 哲也道免 和久
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抄録

【はじめに】
 急性大動脈解離保存療法患者は、入院中の安静を余儀なくされ、それに伴う運動耐容能の低下を招く。さらに、退院後の生活への不安に伴う抑うつなどから身体活動量の低下やQOLの低下を招く。今回、急性大動脈解離保存療法の急性期から慢性期にかけて理学療法を実施し、運動耐容能、抑うつ、QOLの改善が認められた症例を経験したので報告する。
【症例】
 63才男性。診断名:急性大動脈解離(Stanford B型)。既往歴:高血圧、狭心症(7年前にPCI)。身長:171cm、体重:52kg、BMI:18。職業:学校職員。現病歴:平成20年1月20日に背部痛訴え、当院救急搬送。CTにてStanford B型の急性大動脈解離(最大血管径40mm)と診断され、保存的治療が選択された。発症3日後より理学療法介入となった。
【理学療法と経過】
 発症から1週間(ベッド上安静期)は、呼吸器合併症予防のための深呼吸や体位交換、筋力低下や下肢静脈血栓症予防のための下肢トレーニングを実施した。発症1週間~退院(離床・歩行距離の拡大期)にかけては、血圧および下肢や臓器(心臓、脳、腎臓、腸管など)の虚血症状の有無などに注意して歩行距離の拡大に努めた。病棟で300m連続歩行が可能となった後に、PT室での理学療法に変更。歩行速度別(ゆっくり、普通、速いの3種類)、階段昇降時(1階~3階)、手荷物負荷時(2~4kg)の血圧評価を行い、運動許容範囲を提示するとともに血圧の上昇しやすい動作の指導を行った。退院後は、外来通院にて血圧管理や再発予防、運動耐容能向上を目的とした心肺運動負荷試験に基づいた有酸素運動指導を実施した。運動耐容能(AT時VO2)は、13.5ml/kg/min (発症後1ヵ月)→16.4ml/kg/min(発症後4ヵ月)と向上が認められた。また、抑うつの評価(SDS scale)でも、46点(発症後2週間)→32点(発症後4ヵ月)に改善した。さらに、健康関連QOL(SF-36)のいずれの項目にも改善が認められた。
【考察】
 本症例に対して、早期に理学療法介入し、呼吸器合併症や下肢静脈血栓症、筋力低下の予防に努めた。また、離床や歩行距離の拡大とともに、歩行速度別や手荷物負荷などの血圧評価を行い、患者に具体的な運動許容範囲を提示した。さらに、交感神経活性の少ないATレベルでの運動処方を行ったことで、安全範囲内の血圧・心拍数での継続した運動が可能となり、運動耐容能や抑うつ、QOLの改善に結びついたと考える。急性大動脈解離保存療法患者には、単なる離床・歩行距離の拡大にとどまるのではなく、早期介入による合併症の予防に努めるとともに、明確な運動範囲の提示やATレベルでの運動療法を行い、再発予防や運動耐容能向上、抑うつ改善やQOL向上に努めたアプローチが必要である。

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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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