理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-MT-10-3
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初回片側人工股関節全置換術後6か月の歩行速度を規定する因子の検討
村尾 昌信南角 学細江 拓也島村 奈那濱田 涼太後藤 公志黒田 隆松田 秀一
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抄録

【はじめに,目的】

人工股関節全置換術(以下,THA)は,歩行能力の改善に対して有効な治療法である。THA術後の理学療法によって,獲得できる歩行速度は術後や退院後のADL能力を決定することから,歩行速度に着目した評価や介入は重要である。しかしながら,THA後の歩行速度の経過は個人差が大きく,術後理学療法プログラムを検討する上では,歩行速度を規定する術後因子を明らかにすることが重要である。本研究の目的は,初回片側THA術後6ヶ月の歩行速度を規定する因子を明らかにすることである。

【方法】

対象は当院にて初回片側THAを施行した女性68名(年齢59.7±11.4歳,BMI22.2±3.6kg/m2)であった。対象者は,同様の術後理学療法を実施した。術後6か月の評価項目は,両側の股関節屈曲・外転の関節可動域,股関節外転・膝関節伸展・脚伸展の筋力であった。股関節外転筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製)を,膝関節伸展筋力と脚伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)を用いて等尺性筋力を測定した。股関節外転筋力と膝関節伸展筋力はトルク体重比(Nm/kg)を,脚伸展筋力は体重比(N/kg)を算出した。また,THA後6か月の歩行速度の指標としてTimed up and go test(以下,TUG)を実施し,さらに対象をRosemaryらが示したTUGの年代別健常者平均値より速い者をA群,遅い者をB群に分類した。術前の各測定項目について対応のないt検定を行い,有意差が認められた項目を説明変数,歩行速度を目的変数として投入したロジスティック回帰分析を行った。

【結果】

両群の割合はA群33名(49%),B群35名(51%)であった。術側については,股関節屈曲可動域(A群95.8±8.9°,B群89.9±11.3°),股関節外転可動域(A群27.4±7.9°,B群21.9±6.3°),股関節外転筋力(A群0.87±0.26Nm/kg,B群0.72±0.31Nm/kg),膝関節伸展筋力(A群1.70±0.61 Nm/kg,B群1.42±0.56Nm/kg),脚伸展筋力(A群9.41±3.27 N/kg,B群6.93±2.25N/kg)の全ての項目でA群がB群よりも有意に高値を示した。健側については,股関節外転筋力(A群0.94±0.25 Nm/kg,B群0.78±0.21Nm/kg)と脚伸展筋力(A群13.06±4.21N/kg,B群9.76±3.09N/kg)で有意が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,歩行速度を説明する因子として術側の股関節屈曲可動域,脚伸展筋力が有意な項目として抽出された。

【結論】

本結果より,初回片側THA後6か月では約5割の症例で,健常人と同等の歩行速度まで回復することが明らかになった。また,THA術後に健常者と同等以上の歩行速度を獲得するためには,術側の関節可動域と筋力の良好な回復が必要であり,特に術側の脚伸展筋力といった多関節運動による発揮筋力が重要であることが明らかとなり,術後の理学療法介入の一助になり得ると考えられた。

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© 2017 日本理学療法士協会
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