理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-NV-01-5
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口述演題
歩行に最小介助を要する脳損傷後片麻痺患者の動的バランスの特徴
歩行時のmargin of stabilityを用いた介助群・自立群の比較
大田 瑞穂菊池 尊徳金 賢志梶原 千尋島袋 匡史山田 辰樹田邉 紗織渕 雅子
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抄録

【はじめに,目的】これまで脳損傷後片麻痺患者に対する歩行解析・介入の研究報告が多くなされてきたが,多くは単独で歩行が可能な症例の計測データを用いている。本研究ではわずかな介助量で歩行が可能ながらも単独で歩行が行えない片麻痺患者の歩行解析を行い,歩行時における動的バランスの特徴を明確にすることとした。【方法】対象は初発脳損傷片麻痺患者とし,歩行に最小介助を要する介助群13名(年齢58.0±10.7歳,発症期間119.8±53.5),コントロール群として歩行が単独で可能な自立群13名(年齢56.6±9.4歳,発症期間112.6±56.1)とした。計測は三次元動作解析装置(VICON MX),床反力計(MSA-6)を使用し,反射マーカーは27箇所とした。計測は歩行練習時と同様の補助具を用い(自立群:T字杖使用3名,介助群:T字杖使用5名,短下肢装具使用4名),介助群の介助方法は麻痺側からの腋窩・前腕介助とし,介助量は歩行運動を誘導しない程度の最小介助とした。分析指標にはHofら(2005,2007)の方法を参考に,推定質量中心(Xcom:extrapolated center of mass)を床面に投影した位置と支持基底面(BOS)の限界点までの距離(MOS:margin of stability)を動的バランスの指標として採用し,立脚期のXcomと外果間距離(ML:MOS medio-lateral),単脚支持期初期のXcomと踵間距離(BW:MOS backward)を,麻痺側・非麻痺側共に算出した。MLは外踝より内側を+,BWは踵より前方を+とし(単位:cm),3歩行周期分の平均値を代表値とした。臨床指標はFugl-Myer Assessmentのバランス項目(以下,FMAバランス)を用いた。分析にはMann-WhitenyのU検定を用いて比較した(有意水準5%未満)。【結果】MLは麻痺側で介助群9.1±3.0,自立群10.2±1.5,非麻痺側で介助群5.0±1.8,自立群8.8±2.6となり,非麻痺側でのみ有意差を認めた(p>0.01)。BWは麻痺側で介助群9.6±3.5,自立群8.6±0.5,非麻痺側で介助群10.0±3.1,自立群6.0±2.2となり,非麻痺側でのみ有意差を認めた(p>0.01)。FMAバランスは介助群8.6±1.6,自立群11.0±1.4となり,有意差を認めた(p>0.01)。【結論】介助群と自立群の歩行時における動的バランスを比較した結果,非麻痺側立脚期にて違いが明確となった。非麻痺側のMLでは自立群がXcomと外果間距離が大きくなるに対し,介助群は距離が非常に小さく,非麻痺側立脚期で側方へ転倒する危険性が高いこが示唆された。これは介助群でFMAバランスの項目である非麻痺側単脚立位保持が困難であった症例が多かったことからも同様の考察に至り,非麻痺側下肢で麻痺側を含めた身体を空間で保持することが困難である事が原因であると考えられた。非麻痺側のBWでは逆に介助群で大きな値を示し,踵より大きく前方にXcoMが位置していたが,これは麻痺側下肢を持ち上げるために時間を要してしまった結果や後方への転倒リスクを保証するためにXcomを大きく前方に送り出しているものと考えられた。

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