理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-09-3
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口述演題
人工膝関節全置換術後患者における階段昇降獲得予測モデルの構築
―決定木分析を用いた術前・術後因子による予測モデルの検討―
山本 遼熊代 功児
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抄録

【はじめに,目的】自宅退院においては病院内での環境とは異なり,段差昇降や階段昇降等の能力が必要とされることが多く,階段昇降能力と自宅退院とは密接な関係があるとする報告もみられる。我々は先行研究において,TKA後の階段昇降獲得に関連する術前因子を検討した。しかし,症例数が十分でないこと,術前因子のみでは術後経過が加味されていないことなどから,実用化には更なる検討が必要であると考えた。そこで本研究の目的はTKA後の階段昇降獲得を術前・術後因子を含めて検討し,決定木分析を用いた予測モデルの作成を行うこととした。【方法】対象は2012年8月から2015年8月にTKAが施行された223例のうち,原疾患が膝OA以外である14例,TKA再置換術1例,術前より歩行不能である4例を除く204例を対象とした。統計学的解析は①本邦の急性期医療平均在院日数である17.9日を参考として,階段昇降獲得日数が18日以下を早期群,19日以上を遅延群とし,電子診療録より得られた調査項目(年齢,性別,BMI,障害側,術前の両側膝屈曲・伸展ROM,術前の両側膝屈曲・伸展筋力,術前快適TUG,術後7日目の術側膝屈曲・伸展ROM,術後7日目の術側膝屈曲・伸展筋力,術後の端座位・起立・歩行開始日数)を2群間比較。②有意差を認めた変数間での相関係数行列表を作成し独立変数を選別。③階段昇降獲得早期群と遅延群を従属変数とした決定木分析(Classification and Regression Tree:CRT)を実施し予測モデルを作成した。また,10分割サンプルによる交差検証も同時に実施した。すべての統計解析はSPSS Statistics 22を使用し,有意水準は5%未満とした。【結果】術後18日目における階段昇降獲得の事前確率は58.3%(204例中119例)であった。決定木分析の結果,術前快適TUG,術後7日目の術側膝伸展筋力,術後7日目の術側膝屈曲ROMの3項目が抽出された。第1層は術前快適TUGであり,我々の先行研究と同様に術前因子として抽出され13.86秒をカットオフ値として2群に分かれた。第2層では術後7日目の術側膝伸展筋力0.300Nm/kg,術後7日目の術側膝屈曲ROM91°をカットオフ値としてそれぞれ2群に分かれた。予測モデルの一致率は72.1%,感度97.5%,特異度36.5%,陽性的中率68.2%,陰性的中率91.2%,陽性尤度比1.53,陰性尤度比0.07,交差検証70.1%となった。【結論】決定木分析を用いて,術前・術後因子を含めたTKA後の階段昇降獲得予測モデルを作成した。本研究により得られた予測モデルは特に感度,陰性的中率,陰性尤度比が良好な結果であったことから,階段昇降獲得早期群となる症例での判別に有用であり,除外診断に有効である。しかし,特異度,陽性的中率は低く,階段昇降獲得遅延群となる症例の判別には有用とは言えず注意が必要である。本予測モデルは術前・術後因子を含めており,時系列に沿った予測モデルを示した点で有用であると考える。

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