理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0133
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口述
当院回復期リハビリテーション病棟における退院先規定因子の検討
~前期高齢者と後期高齢者の特徴~
金子 諒介隈元 庸夫世古 俊明高橋 由依吉川 文博
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抄録

【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟(回復期)は,自宅復帰を推進することが第一の目標となる。そのため,回復期入院患者の退院先規定因子(退院因子)を検討した報告が散見され,自宅復帰には年齢による影響が強いとされる。厚生労働省の調査によると,我が国の高齢化は深刻な社会問題であり,2017年には75歳以上の後期高齢者(後期)が65歳~74歳の前期高齢者(前期)を上回るとしている。このことから回復期の高齢化が予測され,年齢層に対応したリハビリテーションの介入が重要となる。そこで,我々は回復期における退院因子について前期と後期ごとに検討し,後期は前期よりも身体・認知機能,環境因子など多因子が影響する可能性が示唆され,今後,症例数を増やし多変量解析による詳細な検討が課題となった。本報告の目的は,回復期における前期と後期の退院因子の影響度と特徴の違いについて検討し,回復期高齢者リハビリテーションの介入に一助を得ることである。【方法】対象は平成23~25年度に当院回復期へ入棟後,死亡退院を除く退院の転帰のあった高齢者650名とした。内訳は,前期100名(平均67.4±6.3歳,男性46名,女性54名),後期550名(平均85.0±5.4歳,男性135名,女性415名)とした。対象者の群分けは,前期,後期のいずれも自宅に退院した自宅群と,それ以外に退院した他群の2群とした。検討項目は疾患(脳血管疾患,運動器疾患,廃用症候群),入院期間,入院時の運動FIM得点と認知FIM得点,退院時の運動FIM得点と認知FIM得点,FIM利得,退院時移動手段(車いす,歩行),同居している家族数,配偶者の有無の10項目とし,カルテから調査を行った。得られた情報より,各検討項目における前期と後期の比較,および前期,後期の退院先別での比較をMann Whitney U test,χ2検定を用いて検討した。また前期,後期の退院先別で有意差を認めた項目を独立変数,転帰先を従属変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】各項目における前期と後期の比較では,後期は前期よりも入院期間が短かった。また疾患は前期では脳血管,後期では運動器の疾患が多く,配偶者は前期では有りのものが,後期ではなしのものが多かった。その他項目では差を認めなかった。前期の退院先別による比較では,自宅群は他群よりも入院期間が短く,入院時と退院時の運動FIM得点と認知FIM得点で有意に高い値を示した。また,退院時移動手段は自宅群では歩行が,他群では車いすが多く,配偶者は自宅群で有りのものが多く,他群でなしのもが多かった。その他の項目では差を認めなかった。後期の退院先別による比較では,自宅群は他群よりも入院時と退院時の運動FIM得点と認知FIM得点,FIM利得,同居している家族数が有意に高い値を示した。また,疾患では自宅群では運動器が,他群では脳血管が多く,退院時移動手段は自宅群では歩行が,他群では車いすが多かった。その他の項目では差を認めなかった。ロジスティック回帰分析の結果,前期では退院時の認知FIM得点(Odd比:1.18,95%CI:1.10-1.27)と配偶者の有無(Odd比:3.91,95%CI:1.44-10.62)が,後期では退院時の運動FIM得点(Odd比:1.07,95%CI:1.05-1.08)と同居している家族数(Odd比:2.17,95%CI:1.75-2.69)が選択された。【考察】今回,自宅退院に影響する因子として前期では退院時の認知FIM得点と配偶者の有無が,後期では退院時の運動FIM得点と同居している家族数が有意に選択された。過去の報告からも,運動機能や認知機能,介助者の有無が自宅退院に影響するとされる。しかし,多くが65歳以上のものを対象とした報告であり,本結果より,前期では十分な介護力を有する配偶者が存在することが自宅退院に影響し,また認知機能の低下が配偶者の介護負担に影響を与える可能性が考えられた。一方,後期では配偶者が存在しない,もしくは介護力が低下している可能性があり,介護を補う家族数が自宅退院に影響を及ぼしたと考える。また運動機能の低下が家族の介護負担に影響を与える可能性が考えられた。以上より,前期では認知機能の向上,後期では運動機能の向上を念頭に置いた介入の必要性が示唆された。また,前期,後期ともに対象となる介助者への介助指導や家屋改修,介護サービスの提案により介護負担の軽減を図ることが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】前期高齢者と後期高齢者では退院先規定因子の影響度や特徴は異なり,年代の特徴を捉えたリハビリテーション介入が自宅復帰に繋がる可能性が示唆された。

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© 2015 日本理学療法士協会
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